国選推薦枠
「国選推薦枠、か」
「その通りです陛下。各地にある闘技場で八名、そしてこのガラリエの闘技場と国選推薦枠で格四名、そうして集まった計十六名の選手で魔装演武本戦は行われる。しかし今回、あるトラブルのせいでこの国選推薦枠は三名しか埋まっておらず……『黒き執行者』、彼がリーゼリオンの国選推薦枠で出場すればそれも埋まります。そして一時期勇者と共に紙面を飾った謎多き戦士が出場となれば観客も大いに喜びます」
穏和な笑み、その目の奥に潜む妖しい光に気づいたシルヴィアが、小さくため息をついた。
「それは私にとっても嬉しい話……なのだが、残念な事に、私にはその権限がないのだよ、オイサースト卿」
「それでは、勇者一行の話は……」
「うむ。残念ながら無かった事にするしかないようだ。何せ……『黒き執行者』、この男に命令する権利など、私は持ち合わせておらんのだ」
「陛下が、命令できない? ……彼は陛下の配下の者でも、従僕でもない、と?」
「ははは、随分と的外れな事を言うな、卿は」
シルヴィアは呆れるように苦笑した。
「イーブサルの言葉を聞いていなかったのか? ……彼は、私の友人だ。私の部下ではない。……それ以前に彼を配下に入れられる国などいないだろうさ。執行者よ、『時の魔女』から受け取った物があるだろう、それを出して貰えないか?」
「これの事か?」
『時の魔女』、婆ちゃんから受け取った物は二つある。銀の羽のクルケルのズィルバ、そして黒いギルドカードだ。
今この場にズィルバはいないし、それが何かの証明になるものでもない。では残るのは、と取り出したギルドカードを見て、ズィーク・オイサーストの笑みが凍りついた。
「ほれこの通り。この者『黒き執行者』は『時の魔女』の協力者だ。私も、流石に『時の魔女』との間に問題は起こしたくない。……卿も、そうであろう?」
シルヴィアの問いに、オイサーストは無言で頷いた。
「故に彼を強制的に戦わせる事はできない。……しかし、しかしだオイサースト卿」
シルヴィアはクスリと笑い、歳に似合わぬ妖艶さで足を組んだ。
「私と彼は個人的に付き合いがある。……卿が望むなら私から頼み込んでみよう」
まさに王たる風格を漂わせながら、シルヴィアはオイサーストへ提案をした。
書面などに書かれてはいない。しかし、民を率いる長同士でここに二度目の貸し借りが成立した。
◇
「すまない、勇」
ズィーク・オイサーストの館から出た時、シルヴィアが俺に対し謝った。酷く申し訳なさそうな顔で。
「気にすんな、シルヴィア」
結果から言えば、俺は謎の戦士『黒き執行者』として魔装演武に参加する事になった。
ズィーク・オイサースト。このガラリエの街の領主は大国相手に借りを作ってまで、俺の大会参加に頷いたのだ。
「勇――、」
「良いさ、別に。お前の頼み事ならこの程度」
勿論目立ちたくはない。色々と面倒だしな。しかし、三年前この世界をずっと一緒に旅をした仲間であるシルヴィアの頼みを断る程には俺は後ろ向きではなかった。
まぁできれば観戦側で楽しみたいとは思っていたが。
「し、しかしだ! ……『黒き執行者』はリーゼリオンより推薦を受けた。それはつまり、『黒き執行者』はリーゼリオンと繋がりが有ると知らしめる事と同意だ!」
「元々お前の知人扱いだ、繋がりくらいは疑われる」
「……」
黙りこむシルヴィアだが、その表情は納得したようには見えない。確かに望んだ参加ではない。が、先も言った通り面倒なだけでシルヴィアからの頼みを断る程の事ではない。
「それに、この話を受けるか否か揺れる程度には焦ってんだろ?」
俺に見せたいモノ。恐らくはズィーク・オイサーストでは無く、海翔達に関係しているのだろう。
「……ああ。私は、当代の勇者達と会い、すぐにでも確認しなければならない事がある」
「なら仕方ないさ。そうだな、今夜の宿を用意してくれりゃあチャラにしてやるよ」
まだ宿を取れていない事を思い出し提案する。すると、固い表情だったシルヴィアの顔が笑みに崩れる。
「お前は……ふふ、本当に能天気な奴だな」
「へへ、まぁな」
「ああ、本当に……」
頬を朱に染めるシルヴィア。自然と俺達の距離は近づいて行き――。
「教えてやろうかユウ、俺が最も嫌いな事は無視される事なんだぜ?」
ぬっ、と間に割り込んだリーブサルに遮られてしまった。
「いっ、イーブサル!?」
「こ、……コノヤロウ、クウキクライヨミヤガレッ」
「おー怖ぇ怖ぇ。呪い殺されそうだぜ」
顔をリンゴのように真っ赤にさせ飛びき、シルヴィアと俺達の反応を見てニヤニヤとイーブサルが笑う。
せっかく良い雰囲気になったのにぶち壊しやがったイーブサルに鉄拳一つくれてやろうと拳を振り上げた所で、その拳がピタリと止められた。
「おっと、そいつは後のお楽しみにしておくぜ」
ガラリと雰囲気の変わったイーブサルに、拳を止められたのだ。
「事情はどうあれ、お前が参加する事になったんだ。……今回の魔装演武、悪いが本気で行かせて貰うぜ?」
ズィーク・オイサーストが鷹ならば、イーブサルは獰猛な肉食獣だった。それも、腐肉を漁るハイエナではなく王者たる獅子を思わせる。
「……そうか、それじゃあ、今殴るわけにはいかねぇな」
「おうよ」
俺がそう言うと、イーブサルは笑い俺から離れる。
「今日は楽しかったぜユウ。……明後日からの魔装演武が楽しみだ」
「あ? なんだよいきなり──」
突然別れの言葉を言ったイーブサル。
あまりに突然だったために驚いた俺だったが、続けて更に驚かされる事になる。
ザッザッザッ。一定の間隔で聞こえる軍靴の音。
鎧に槍、武装を纏った何十人もの騎士達がこの領主館前の広場に向け行進して来たのだ。
「な、何事?」
「双頭の竜にその身を貫く槍の紋様、バランシェルか」
驚く俺を余所に冷静に騎士達を観察するシルヴィア。見れば確かに、バランシェルを象徴する二頭の竜に槍の装飾が盾や鎧に施されていた。
「兵隊? どこの?」
「ありゃあ帝国だ、帝国バランシェルだ!」
「なんでこんな所にバランシェルが……」
物々しい雰囲気で行進する騎士達の姿に、辺りがざわめく。
そんな周囲を他所に、イーブサルは歩き出す。そして今まさに行進してくるバランシェルの騎士達に向かって、声を上げる。
「出迎え、ご苦労」
イーブサルの声が、ざわめく群集を静め、広場に響く。
それに呼応するように騎士達が行進を止め、イーブサルの前で整列した。
そして――、
「ふむ、どうやらこちらも来てしまったっようだな」
「こちらもって……!」
ザッザッザッ。
多くの足音と鎧が揺れて鳴るガチャガチャとした音が静まり返った広場に木霊する。
シルヴィアが向いた方向に向けた俺の眼に、双翼に剣の紋様が映る。
「あれは……リーゼリオン!?」
青い鎧を纏った男を先頭に、リーゼリオンの騎士達が行進して来ていた。
「出迎え、大儀なり」
シルヴィアが自分を迎えに来た騎士達に労いの言葉を掛けると、辺りの群集と俺の混乱は最高潮に陥った。
無理もない。二大大国と並び称される国の軍隊が何故か今、この広場に集結していたのだから。
お待たせしました、最新話です。
大会出場が決まったと思ったら、二つの国の軍隊が鉢合わせ。突然すぎますかね?
ではまた次回。お楽しみにー




