エルフの学者と巨大ゴーレム
「で、でっけぇ!!」
一歩歩く毎にズシンズシンと地面を揺らして進む巨大ゴーレムは、天井擦れ擦れになりながらも次の階へ進む扉の前で立ち止まった。
片足だけで十分門番代わりになりそうだぞおい。
「ご、ごごゴーレム!? なぜゴーレムが!」
「『オブシディアン・ゴーレム』……全身が黒曜石でできたゴーレムで、『ミスリル・ゴーレム』に並ぶ上位種。ゴーレムの亜種では最高の耐熱性を誇る稀少種……私も見るのは初めてよ」
「おいおいマジかよ……」
赤熱していた体躯がゆっくりと冷めて行くことで、その巨躯のゴーレム、『オブシディアン・ゴーレム』は本来の艶やかな黒色の身体になった。
黒曜石……火山岩の一種でその色とガラス質が特徴的な石で、普通の物なら地球にも存在している。
……しかしこの異世界レインブルクにおいてはただのガラス質の火山岩では終わらない。
魔力を帯びてるせいか強度があり、ガラス質のくせに割れにくく傷も付きにくいのだ。
魔法銀と呼ばれるミスリルには稀少さや性質は劣るが、汎用性と加工のし易さから高値で流通している石だ。
「きっ、来た来た来たーっ!! こいつぁとてつもない当たりを引いたみたいだねぇ!! ほらほら黒毛の、やっちまいな!! あんなでっかいゴーレム、そこらの魔石は積んでないよ! 億万長者も目の前さぁ!!」
とてつもなくデカいゴーレムを前に慌てるどころか、目を輝かせ魔石を売る気満々のアンジェリカ。おいおい飛行艇のための魔石だろうが。
「しかし堅そうだな……フィオナ、アレ倒せるか?」
「誰に言ってるのよ、勇。所詮多少堅くてデカいだけのゴーレムよ? 訳ないわ」
そう言うと、フィオナは左手の人差し指に指輪を差した。
「指輪型の魔法発動体か」
「対した物ではないわ。ただ杖変わりになるだけ」
そう言うとフィオナは両目を閉じて詠唱を始めた。
その詠唱に反応したのか、黒曜石のゴーレムが動き出す。
緩慢な動きに反してゴーレムは急速に接近して来るが、ゴーレムが攻撃動作を取るよりはやく、フィオナの詠唱が完了した。
「─燃え上がれ、―─『Frametornado』!!」
統合系魔法フレイムトルネード。
炎を纏った暴風が巻き上がり、黒曜石のゴーレムを包み込む。……って!
「おいフィオナ! こいつに炎は効かないんじゃないか!?」
「はぁ……勇、アンタって奴はこの三年で全く変わってないようね」
マグマの底から現れたオブシディアン・ゴーレム。フィオナ本人が言うように炎に高い耐性を持つはずのそいつに、なぜか炎の魔法を浴びせるフィオナ。
俺が思わず尋ねるとフィオナは不機嫌さ丸出しで溜息をついた。
「魔法ってのは多種多様……ようは使い方なのよ。あいての防御を上回る攻撃力で破壊する事もできれば、相手の強度を引き下げ自滅させる事もできるのよ。……こうやってね」
高温の炎に包まれ赤熱し始めたゴーレム。そのゴーレムに向かってフィオナは指を向けた。
「――Freeze――」
一点の気温を極地的に極低温まで引き下げ、対象を巨大な氷の結晶に閉じ込める氷結系魔法。無詠唱で放った魔法は赤熱したゴーレムの半身程度を覆う程度しかなく、ゴーレムの動きを阻害する程度だ。
しかもゴーレムを拘束できたとしても、直ぐに氷を砕いて前進してくることだろう。
そう思った瞬間、ゴーレムの身体から煙が上がった。
いや、違う。高温になった身体を覆った氷が溶け、水蒸気になったんだ。
赤熱する程高温に達していたゴーレムの身体は急速に冷やされ、元の黒い体色へ変わって行き、そして──
バギンッ。
耳をつんざくような音と共に、大きな亀裂がゴーレムの身体に走る。
「熱膨張からの収縮か!」
「ねつ……なんですか、それ?」
フィオナの思惑にようやく気づいた俺が叫ぶと傍らにいたベルナデットが首を傾げる。
「あー、……物体ってのは熱を加えると体積が増えてだな」
「???」
くそっ、原理とか知ってはいるんだが全く知らん異世界人に説明すんのは難しいぜ。
「し、しかし良くそんなこと知ってたな、フィオナ」
話を切り替えるとフィオナは小さくため息をついた。
「熱膨張だかなんだかは知らないけど、高温から冷やすとガラスが割れるって言うのはアハトから教えられた事よ」
成る程、ドワーフは鉱石なんかの性質に詳しいからな。
ゴ、ゴゴゴ……。
重い物を引きずるような音が聞こえ、振り返ると黒曜石のゴーレムが片腕だけ動かし俺達へ少しずつ迫って来ている。
「た、倒したんじゃあないのかい!?」
「核を抜けば終わるだろ。……ほいっと」
身体を引きずり出しながら動くゴーレムの上に立ち、人で言う胸と腹の中心辺りに走る亀裂の奥に見える黒光りする石を手で引き剥がす。
するとゴーレムら力を失ったように倒れ伏した。
「こいつがゴーレムの核か。……すげぇ量の生命力だ」
ソフトボール大のそれを手に持った時、ゴーレムの核から伝わる大きな力に思わず呟く。
『マナ』。魔力の源とも言うべきソレは生命のみが持つ命を象る力だ。大気の魔力も生命から放出されたマナが変質したものだと言われている。
どうやらこのゴーレムの核は魔石ではなくマナの結晶とも言うべき石みたいだ。
「やいやい黒毛の! アタシらにも見せておくれよ!」
「ああ、悪い」
せがむアンジェリカに放り投げると、アンジェリカは両手でゴーレムの核を掴み、まじまじと見つめる。
そして一瞬で表情が悪巧みを思いついた子供のような笑みに変わる。
「はっはっはっ……助かったよ、黒毛の」
「……ま、まさか貴女達!」
ゴーレムの核を片手に不敵に笑うアンジェリカとその後ろでグフフと気味悪く笑うノッポとチビ。
そのアンジェリカの思惑に気付いたベルナデットが声をあげる。
「そう、その通りさ。アタシ達はここでおさらばって訳さ」
「「おさらばって訳さ! 」」
そう言ってジリジリと立ち去ろうとするアンジェリカ達だったが、
「……オレ達抜きで帰れんのか?」
クオンの尋ねた言葉に凍り付いた様に固まった。
そう、元々護衛兼戦力として俺を欲していた三バカ達。魔石を手に入れれば確かに用済みではあるが、俺達が同行しなければ戻る事も進む事もできない状態なのだ。
「三年前も思ったけど、お前らもうちょっと考えて悪事働けよ」
お待たせしました、最新話です。
毎度毎度ですがこの文章量で一週間もかけたくないものです。文才と筆の速さが欲しい今日この頃。




