実力の片鱗
「す、すげぇ……」
思わず零れのは感嘆の声。
ベルナデットの舞う様に戦う姿に、驚いていたのだ。
ベルナデットは飛び上がり、火蜥蜴達の群のど真ん中に降り立った。
大型犬ほどの大きさの火蜥蜴達に自ら囲まれに行ったベルナデットだったが、次の瞬間、二体の火蜥蜴の頭が吹き飛んだ。
頭を撃たれ絶命し、倒れ込んだ火蜥蜴を蹴り上げ、左右から放たれた火炎の盾とする。
盾にした火蜥蜴が地面に落ちるや否や両腕を左右に広げ、魔力弾で更に二体の火蜥蜴を撃ち抜く。
轟ッ!!
火炎がベルナデットを襲う。が、ベルナデットは姿勢を低くしそれを避け、回避際に火炎を放った火蜥蜴を撃ち抜いた。
「……ふっ!」
牙を見せ食らいつこうとした火蜥蜴に一発、腕を振り上げ鋭い爪で切り裂こうとしてきた火蜥蜴の攻撃を踊るようにくるりと一回転して避けて頭に一発撃ち込み。計七体の火蜥蜴が一瞬で骸となった。
それからは一方的だった。両腕を広げ身体を回しながらトリガー引き数体の火蜥蜴を一掃。
銃を撃ち終えたベルナデットは、息一つ乱していなかった。
「ふぅ……これで完了、ですね」
魔銃をスリットの中に入れたベルナデットが振り返って俺達を見る。
「クオンさーん! 他にいますー?」
「……わかる範囲では、いないぜ」
あー、……ベルナデットの本当の力量を見てクオンがすげー嬉しそうに笑ってやがる。
そう言えばベルナデットとクオンが戦った時にはお互い本来の獲物を使わずだったからな。
「なぁなぁシスターの姉ちゃん。……オレといっちょ再戦といかない?」
ここでか!? と流石に勘弁して貰いたくってクオンを止めようとすると、ベルナデットがクスリと笑う声がした。
「このダンジョンを踏破した後でなら、いくらでも」
片目でウィンクして笑うベルナデットに、俺は不覚にもドキリと感じたのだった。
◇
十九階、火蜥蜴の巣を突破した俺達の前に、十階で見た大きな扉と同じ物があらわれた。
さしずめボス部屋の扉と言った所か。
「おいフィオナ、今度のボスはなんなんだ?」
火蜥蜴の事を黙っていたフィオナに問いただすと、ため息を吐いて本を広げた。
「ゴーレムの筈よ」
「筈?」
「十階づつに出てくる門番はその全てが各属性のゴーレムだった……けどあんな化け物が出てきた以上、この階でも化け物が出てくる可能性は否めないわ」
確かに、ビホルダー級の化け物がまた現れる可能性はある。
むしろあの愉快犯気質の吸血鬼ならやってくること請け合いだ。
「アタシゃゴーレムであって欲しいがねぇ」
アンジェリカが胸元を開け手で仰ぎながら言う。ふむ、ブラは黒か。
「ゴーレムも難敵っちゃあ難敵だろ?」
確かに危険度ではゴーレムの方が低いだろうが、戦うのは俺達なわけであってアンジェリカらにとってはどっちでも良い筈なのだが。
「ゴーレムの核は魔石なのさ。強いゴーレム程純度の高い魔石を手に入れられるって寸法よ」
「成る程……ここのボスがゴーレムだけってのも案外この迷宮が魔石の採掘地だったからなのかもな」
ゴーレムであることを望みながら扉に手を掛け、ゆっくりと押す。
ゴゴゴゴゴ、と扉が音を立てゆっくりと開いて行く。
すると、扉の合間から冷却の魔法を上回る程の熱気が溢れ出てきた。
「っ……、フィオナ」
「はいはい。……『cool』」
ベルナデットの冷気の魔法だけではダメだと感じフィオナを見ると、フィオナはため息をして魔法を発動させた。
ベルナデットとフィオナの冷気の魔法の相乗作用で熱気は完全に遮られた。
「よっと……うわ、すげぇな」
扉を開けた先に見えたのは、吹き上がるマグマに、高い岩の天井。
マグマが他の階層より高温に保たれているからか、この空間は外以上に明るかった。
「まるで火山の噴火口だ……」
クオンが小さく呟いたのに俺も頷く。
道こそあるが、いつマグマが溢れ出てくるかわかったもんじゃない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
戦う環境としては最悪。
これでビホルダーみたいな化物が来たら目も当てられない。
ゴーレムであって欲しいと願いながら進んで行くと、クオンが前に出た。
「ヤシロのアニキ、気をつけて。……もう居やがるぜ」
部屋の中は火口のような場所だが、目で見える範囲では魔物の姿は見えなかった。
「場所は?」
「下……いや、マグマの底、ってとこかな」
ピン、と狐耳が立ち警戒するクオンに習い、俺も魔剣の柄を掴み直ぐにでも戦えるように備える。
「マグマの? ……と言うと、ゴーレムではないみたいですね」
ジャキッ、と魔銃を構えてベルナデットが呟く。
巨岩の番兵ゴーレム。
迷宮ではもはや定番とすら言っていい程知名度を有し、低級の迷宮でも稀に現れる魔物だ。
武器はその身体自身。人一人程の巨岩の拳は振り下ろすだけで脅威だ。
そんなゴーレムだが弱点は意外にも炎、それも高温の炎だ。
いくら硬く、堅牢な身体を持っていても所詮は岩。千度を越える熱は身体が溶けてしまうのだ。(稀に鉄でできたゴーレムもいるが、こいつも弱点は炎)
それを考えるとマグマの中に居るのはゴーレムでは無く、マグマの高温すら無効化してしまう相手……。
そう行き着くのは当然のことのはずだ。……しかし、
「……ゴーレムはゴーレムでも、とんでも無いものを引き当てたみたいね。……ほんと、勇の悪運には毎度毎度……」
ズズン……、と地面を軽く揺らしながらマグマの中から現れたのは、体長二十メートルはある巨体。
マグマの温度で赤熱した体躯の、巨大ゴーレムだった。




