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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
孤島の大迷宮ノルドヨルド編
111/192

流動

「クオンさん! あまり近づき過ぎないでくださいよ!」


「わかってるって! 絶、影ッ!!」


近づいてくる魔物に魔弾を放ち、一撃で仕留めながらベルナデットが疾駆するクオンに叫ぶ。


それに言葉を返しながらクオンは『絶影』を放つ。

短刀を抜刀すると同時に、溜めていた魔力を魔装剣に転用し、一太刀で敵を叩き斬る奥義、『絶影』。

船上で教えたこの技(フィオナ曰くゴリ押し)を使い溶岩塗れのサソリをクオンは両断した。


十一階層から現れた火山洞穴を進む俺達は、変化する地形や高熱の敵に対し多少苦戦してはいるものの、快進撃を続けていた。


「おっと、せり上がってきたか」


じわりじわりと高くなってくるマグマに気づくと、俺達は近くの大岩によじ登ってマグマが引くのを待つ。


「何が嫌って、進めなくなる事だねぇ」


「ああ、魔物に関してはオレも少し手こずる程度だけどこればっかりはどうしようもならないぜ」


アンジェリカのため息混じりの言葉にクオンが頷く。

そう。魔物はどうとでもなるが、この灼熱地獄の中進めなくなるのはどうしようもないのだ。

俺が死ぬ気でマグマの上を走って渡し船代わりなると言う案は無しだ。

死にゃしないけど痛みで発狂しちまうよ。


「冷気である程度熱は防げますけど、流石にマグマに触れてはどうしようもないですからね」


俺達に冷気の魔法をかけながらベルナデットが苦笑する。


……あの会話の後から、どうもベルナデットと会話ができない。

いや、理由はわかってる。ベルナデットの言葉に思う所があり、勝手に俺が押し黙っているだけだ。


(死ぬのが当然、か……確かに、死ぬのに慣れ過ぎたせいだよな)


この世界に初めて来た頃は、俺は自分が不死だとわかっても死中に飛び込むような事はしなかった。

痛みはあるわけだし、何より死ぬ瞬間の、全てが零れ落ちて行く感覚に恐怖したからだ。


いつからだろう、死ぬ事《・・・》を戦術に入れ始めたのは。


そんな事を考えていると、ふと耳に小さな振動が起こった。


『……いつまで悩んでるつもりよ、勇』


耳の通信石から、フィオナの声が響いて来た。


『フィオナ!? これ、アリシアから貰った奴だぞ!?』


『通信石さえあればジャック事態は簡単よ。……それより、いつまでもウジウジと悩まれても迷惑なんだけど?』


辛辣なフィオナの言葉に、俺は思わず苦笑する。


『相変わらずだな、フィオナ。もう少し優しく言ってくれると嬉しいんだが?』


『アンタ優しくするとつけあがるじゃない。嫌よ』


ピシャリと言われ、苦笑が出る。全くその通りなのだ。


『……で? あのシスターにはどこまで教えたの?』


『教えた?』


『不死に気づいているから勇者の事は話したって感じかしら?』


『あぁ、そう言う事か。そうだな……のろけなら話した』


『は?』


なんか低い声で聞き返された。地味に怖いからやめて欲しいぞそれ。


『あー、オリヴィアと馴れ初めから終わりまで、って感じで勇者の事も軽く話した』


『陛下の、事を?』


俺が答えると、フィオナは珍しく驚いた様子で聞き返してきた。


『なんだよ、そんなに驚く事か?』


『…………別に』


何故かふてくされたように通信石の魔力を切ったフィオナ。

追及しようにも魔力が無い俺では通信石は起動できないので視線だけ向けると、フィオナは岩から降りてしまった。


「って何してっ──」


「ヤシロさん? どうかしました?」


「えっ……あー、すまん。ぼーっとしてた」


見ればいつの間にかマグマは引いていたらしく、俺以外の皆は既に岩から降りていたのだ。


◇


それから数時間くらい進んではマグマを避けて進んではマグマを避けてを続けていると、やけに広い階層にたどり着いた。

一つの階層が一面マグマだらけで、遠くには次の階層へ続くだろう穴が見える。

真っ直ぐ行けばこの階層をすぐ抜けられそうだ。


「第19層……火蜥蜴《サラマンダー》の巣よ」


フィオナの発した言葉に、凍りついたように一同の動きが止まった。


「火蜥蜴《サラマンダー》だと!? おまっ……なんで先に言わねぇーんだよ!」


「本は渡してあったじゃない。そこに乗ってるわよ」


「ぐっ……しかし、火蜥蜴か……」


火蜥蜴《サラマンダー》。火を象徴とする魔物で一番にあがるのがこの火蜥蜴だろう。

火山に生息し、マグマを寝床にする魔物で、下位の竜種だ。


数は多くいるわけではないが、マグマと完全に同化でき、口から吐く炎のブレスは鍛えた鋼の盾が一瞬で融解する程の熱量を持つ。


そして何よりも火蜥蜴を難敵たらしめているのは、


「!? ……アニキっ!囲まれてるぞ!!」


その抜きん出た凶暴性にある。

己のテリトリーを犯す者への絶対的なまでの排敵性は、物語に伝わる竜に通じる物がある。


唯一違う所があると言うならば、それは数十体からなる群での戦闘を行うと言うことだ。


十を優に超す数の火蜥蜴がマグマから這い出て現れる。


「ヤシロさん、ここは私に任せてください」


鞘に収まっていた魔剣に手を掛けた俺を、ベルナデットが制止する。


「ベルナデット?」


「火蜥蜴相手に接近戦はおすすめしません。それに……つかず離れずの間合いなら、私の間合いです!」


そう言ってスリットから魔銃を抜いたベルナデット。

刹那、火炎を吐こうとした火蜥蜴を、音より先に魔力弾が打ち抜いた。


「最近あんまり活躍できませんでしたしね!」


「活躍っておい……」


テンション高めなベルナデットに不安を抱くのは俺だけなのだろうか? 


そんな俺の不安を余所に、ベルナデットはカツカツと靴音を鳴らし前進する。


「まぁ見ていてください。……今の一発で、勝機は見えました」


双銃の銃口を上下に向け、十字の構えを見せてベルナデット笑う。


お待たせしました、最新話です。


そして唐突なベルナデット回(笑)


ではまた次回。お楽しみにー

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