お花見
多分夢を見ていたんだと思う。
そうでなければこんな閉じた世界なんてないはずだから。
でも、もし夢でないとすれば。
この閉じた世界は閉じられていないのかもしれない。
じゃあ閉じられているのは何?
○月×日晴れ。
今日は蒼様と一緒にお花見に行く!
最初は渋っておられたみたいだけど、そこはそれ私の愛の力!
夕べは徹夜でお弁当も作ったし準備は万端おーるおっけー!
蒼様喜んでくれるといいなぁ。
問題は…
「なんでお祖父ちゃんもついてきてるのー!?」
誰にも言わずに抜け出してきたのに…
「何を言う。ワシはお前の保護者じゃぞ?蒼お嬢様の身も案じなければならんしな。」
いかにも心外というふうにお祖父ちゃんが言う。
というか、どうやって知ったんだろう。
蒼様は桜の花を見ながらうっとりとした表情を見せている。
それは私も未だ見たことのない顔で。
連れてきて良かった。
蒼様が喜んでくださることが私の喜びでもあるのだから。
「お嬢様、今日はお稽古があるということをお忘れでしたか?さ、お戻りになりましょう。」
突然響く声。
この声は…
「と、父さん…。何故ここが…?」
いつのまにか蒼様の前には私の父さんであり、蒼様の執事が立っていた。
途端に蒼様の顔から笑みが消える。
いくら父さんでも蒼様を悲しませることは許されない!
私は思わず背中の竹刀を抜き、父さんに斬りかかる。
しかし、その一撃は軽く弾かれる。
見ると父さんも竹刀を構えていた。
予想の範疇だったのだろう。
「ふむ、里美よ。連れ出したのはお前か?まあ、それはいい。とにかくお嬢様にはお戻りいただく。」
言い終わるが早いか、父さんは素早く竹刀を振るってくる。
私にはそれをギリギリで防ぐのが精一杯だ。
やっぱり強い…
私はまだ一度も父さんに勝てたことなんてないんだ。
でも、今回だけは絶対負けたくない!
蒼様のためだもの!
その時どこからか手裏剣が飛んできた。
「正二、今はこの二人の好きにさせてやってくれんか?無理というならワシが相手になるが…。」
私と接してる時には絶対見せない表情でお祖父ちゃんが横に立っていた。
父さんはここで初めて顔をわずかに歪ませた。
「お師匠殿。いや、ご隠居殿。昔ならいざ知らず、今のあなたに私の相手が務まるとでも?」
もう父さんの目にはお祖父ちゃんしか映っていないようだった。
聞く耳もたずかと呟きながらお祖父ちゃんは手裏剣を投げる。
いつも私に投げる手裏剣とはまるでキレが違う。
でも、父さんはそれをなんでもないように弾く。
「里美、早く蒼お嬢様を連れて逃げるんじゃ!」
そう叫びながら父さんに突っ込むお祖父ちゃん。
私には蒼様の腕をとって逃げるしか出来なかった。
どれだけ走っただろうか。
蒼様もさすがに苦しそうだ。
「うわぁ…。」
その声は蒼様が発したのか、それとも私の声か。
その辺り一面に桜の花が舞っていた。
逃げていることも忘れてその光景にしばらく見惚れる。
ふと蒼様を見ると、先ほど消えた笑みが再び戻ってきていた。
ちゃーんす。
ここで私のお弁当を出して好感度あっぷ!
「蒼様!じ、実はですね。私、お弁当などを作ってまいりまして…。」
蒼様は驚いたようで、私を見つめる。
「里美、料理出来たの…?」
なかなか酷い言われようだが蒼様だから良し。
「ささ、どうぞ!この里美、蒼様のために腕によりをかけまくって作りましたよー!」
おずおずとお弁当を受け取る蒼様。
そして恐る恐る食べ始める。
その瞬間蒼様の表情が固まってしまわれた。
「え、あれ?蒼様?」
蒼様は何も言わずにその場に倒れる。
えぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!
な、なんでどうして!?
さっき走ってきた時の疲労!?
それともやっぱりお弁当!?
どっちにしても私のせい!?
あああ、そんな…ちゃんと砂糖と塩は間違えずにいれたはずなのに。
結局、私は蒼様をお屋敷に連れて戻るしかなかった。
父さんは私を叱るわけでもなく、まだ修行が足りんなと言って私の頭に手を置いてくれた。
その夜、私は蒼様の部屋へお見舞いに行った。
「蒼様…?お加減はいかがです?」
自分でもその声が震えてるのがわかる。
きっと蒼様は怒ってらっしゃる。
逃げ出してしまいたい。
もう私はここにいられなくなるんだろうか。
しかし、蒼様は普段滅多に見せない笑顔を見せてくれた。
「もうちょっと料理は勉強した方がいいかもね。」
その言葉を理解するのに数秒かかった。
私は蒼様に仕えていて良かった。
蒼様のためならきっとなんでもしてみせる。
そう改めて誓った。
きっと誰にだって夢を見る権利はある。
でも、誰もがその夢を否定する。
それは夢で現実にはなりえないと。
本当にそれは夢?
もし夢でないのなら一体何なのだろう。
私が見ている夢も別の何かなのだろうか。
それを知るにはまだ時間がかかりそうだ。
END




