里美その一日
昨日見た夢はなんだっただろう。
今朝見た夢はなんだっただろう。
いくら楽しい夢を見ても。
いくら悲しい夢を見ても。
きっと起きた瞬間には忘れてしまう。
でも…
「さてっ、今日も一日蒼様の護衛だ~っ!」
私こと、川原 里美は蒼様のメイドである。
蒼様は例え自らの身をなげうってでもお護りいたすべし!
蒼様に嫌われた者、避けられている者は山に戻って修行しなおせ!
それが嫌なら誠心誠意を持って任務にあたることをここに宣言いたします!
と…
あとこれを3セットで今日の日課は終わりっと♪
まあ、これは決まりでも何でもなく私が勝手にやってるだけなんだけどね。
蒼様のためならこのぐらいの覚悟なんだよっ!
今の時間は朝5時。
今日は剣道部の朝練かぁ…
うん、それも蒼様を護るためっ!
いってきま~…
ガスッ!
げふぅ!
気がつくと足元に手裏剣が落ちていた。
これは…また?
「まてぃっ!屋敷の外に出たくばこのワシを倒してゆけぃっ!」
いつものように手裏剣を右手に持ち、屋敷の出入り口でお祖父ちゃんが立ちはだかっていた。
急いでるっていうのに…もぅ~!
面倒なのでいつも持っている竹刀で一蹴しておく。
まったく…いつもこんなことやってるから早起きしても遅刻ギリギリになっちゃうんだぁーっ!
ついさっき台所から失敬してきた食パン(生)をくわえて走る。
もぐもぐ…
食パンって焼かなくても美味しいからいいよね~。
さっ、この角曲がれば学校だ。
ドンッ!
…へ?
角を曲がったところで何かにぶつかって思わず後ろによろけてしまった。
なに?なんなの?
あ、これってひょっとして恒例のラブロマンスの発生フラグオンってやつ?
あぁ…これで私にも春が来るのねぇ~。
ドカッ!
な”っ…
空想(妄想)に浸っているとさらに後頭部に衝撃が走った。
頭をさすりながら見上げてみるとそこに剣道部で使われている竹刀が転がっている。
私のはちゃんと持ってるし、これって誰のなんだろ?
「あっ、ごめんなさいっ!大丈夫ですか?」
そこには見覚えのない少女が申し訳なさそうな表情でペコペコと平謝りをしている。
でも、なんで竹刀?
「あ…うん。大丈夫だけど…。なんで竹刀…。」
まだちょっと痛いけど、立ち上がれないほどじゃなかったからそう答えて立ち上がる。
するとその少女はほっとした表情になり、
「本当にすいませんでした。それでは私は急ぎますからこれでっ!」
わぁ~っ!空さんと間違えちゃったよぉ~って言いながらその少女は去っていった。
それでさ…
なんで竹刀?
はっ!
こんなことしてる場合じゃないっ!
遅刻だーっ!
うぅ…これで通算365回目だから部長にどやされるんだろうなぁ…
案の定こってりと部長に絞られ、くたくたになって授業に向かう。
5分遅刻したくらいで腕立てと腹筋2300セットなんて酷いよねっ!
はぁ~…憂鬱。
ふと気づくと前から私と同じように溜息をつきながら歩いてくる女の子が目に入った。
って、蒼様だっ!
「蒼様っ!おはようございますっ!」
さっきまでの疲れや憂鬱さなんてどこへやら。
蒼様に朝会えただけで私は幸せですっ!
蒼様には私の有り余って器が割れるくらいの元気を分けてさしあげなければっ!
私が元気良く挨拶すると蒼様は急にお顔をお上げになられて、教室の方へ駆けていってしまわれました。
良かった、私の元気が蒼様に伝わったみたい。
うんっ、今日も頑張って蒼様をお護りするぞ~っ!
きっと明日も夢を見る。
また明後日にも夢を見る。
そのうちのほとんどは忘れてしまうだろうけど。
でも、忘れたくない夢はきっとある。
例え忘れてしまっても…
絶対に忘れていない夢が…
END




