第8話 ステルス
炎鳥の騎士団のギルドハウスにエリザが連れ込まれる場面を見た俺とメルティア。
俺たちは一度宿屋に戻り、エリザ奪還のための準備を開始した。
◇
・・・ガルディオン中層(夜)
エリザ誘拐から5時間経過。
二つの影が、寝静まったガルディオンの街を駆けていく
深くフードを被った人影は、炎鳥の騎士団ギルドハウスの前で足を止めた。
「このフード…顔が全部隠れて動きづらいわ」
背の低い人影がそう話した。
「仕方ないだろ、俺たちは今から」
もう1つの人影がそう話していた。
「他人のギルドに侵入しようとしてんだから」
2つの人影はギルドハウスを見上げていた。
「…ワタクシたち、まるで犯罪者ですわね」
「なら引き返すか?お嬢様」
「…冗談!」
「っはは。じゃあ行こうか」
彼らは、ギルドハウスの中へ姿を消した。
◇
「どうして私ばっかりこんな目にあうんだろう…」
私はゴブリンという種族らしい。
幼い頃、大好きだった父は汚らわしいという理由だけで冒険者に殺された。
それから数ヶ月後、ゴブリンだからという理由で愛してくれた母も冒険者に殺された。
私は1人彷徨って、ある時力尽きて倒れた。
目を開けた時には檻の中で、鎖に繋がれていた。
それからはずっとそこで生きてきた。
私はどうやら奴隷として商品になったらしい。
外で働いている大きなおじさんは優しいけれど、それ以外は何もなかった。
生きていく希望のなかった私を見かねて、おじさんは1冊の絵本を私にくれた。
私はその絵本を何度も読んだ。
絵本に描かれている英雄はカッコよくて、私もそうなりたいと心からそう思った。
そう思えるだけで、十分だと思っていた。
…長い時間がたったある日、2人の人間が私の近くに来た。
こんなところに来る人間は多くない。
なんとなく自分に価値がないんだと気づいていた。
だから、2人を貧乏人が現れたと内心バカにしていた。
女の子が私の檻に近づいてきた。
とても綺麗な顔をしていた。
私とは違って、素敵な人生を送って、幸せを謳歌しているんだろう。
そう思った。
でも女の子の声は、とても優しかった…。
それから、私は檻から出された。
優しいおじさんは私にくれた本をそっと手に持たせてくれた。
あの2人の人間が私を購入したようだった。
女の子はずっと私に優しく接してくれていた。
でも、恥ずかしくて何も話せなかった。
もう1人のおじさんは、なんだか頼りないと思った。
女の子に何か言われた後、私に話しかけてきた。
コウヘイ
「あ、あぁ…。そのぉエリザ?困ったことがあったらなんでもおじさんに言うんだぞ〜!」
ありきたりでつまらない言葉だった。
でも、女の子とは別の暖かさみたいなものを感じた…。
◇
それから私はある家に連れて行かれた。
絵本にも出てきた<宿屋>という場所だった。
女の子は美味しそうな料理を作ってくれた。
必死に表情を変えないようにしたが、よだれが垂れてしまった。
その後、夜になって2人は眠ってしまった。
今日の出来事を思い出すと、なんだか心がポカポカとした。
こんな気持ちになったのはお父さんとお母さんがいた時以来だった。
私は体の熱を覚ますために、2人を起こさないようにそっと部屋を出た。
すぐ戻るつもりだった。けど…
「おっゴブリン。なにかのイベントかなぁ」
「珍しいですね。はぐれゴブリンのようですが特に奴隷契約なども受けていない様子。どうしますかギルマス」
「………連れて帰る」
怖い顔をした男たちに捕まってしまった。
◇
「お姉ちゃんたち、どうしてるかな…」
自分を買ってくれた2人の人間を思い出す。
もしまた捕ることが無かったら、あの優しそうな2人と幸せに暮らせていたかもしれない。
あの優しそうな2人なら、もしかすると助けに来てくれるかもしれない。
…いいや。そんな事ある訳ない。
2人が優しかったのだって見せかけの演技だったかもしれない。
そもそも奴隷を買うような人間だ。
私を信頼させて最後に騙すつもりだったかもしれないじゃない。
誰も信用できないわ。
伝説の英雄アルセイン以外なんて…
「あっ、絵本。置いてきちゃった…」
???
「絵本ってこれのことか?」
フードを被った怪しげな人物が、いつの間にか檻の前に座っていた。
「バカッ!喋らないで!気づかれたらどうするの!」
もう1人フードの人物が檻の鍵を外していた。
フードを被った怪しい2人組から聞こえた声は、聞いたことのある優しい声だった。
エリザ
「……っ!コーヘイ!メルティア!」
「おぉぉぉぉっと!もう大丈夫だ。安心しなぁ」
「エリザ!あなた喋ってくれたのね!…感激で涙が」
私は暖かな雰囲気の2人組に抱きついた。
ポカポカした気持ちが体中に広がった。
◇
???
「皆起きろ!侵入者だ!」
炎鳥の騎士団ギルドハウスのとある一室に、底抜けに明るい声が響いた。
部屋に電気が灯る。
流し目の男
「まさか本当にイベントが起こるなんて、面白いこともあるもんですね」
陽気な男
「イベントイベント!レアイベントだ!」
威厳のある男
「………侵入者か」
炎鳥の騎士団の構成員三人が、侵入者を取り囲んでいた。
頼りなさそうなフードの男
「あちゃあ、見つかっちゃったよ」
気品を感じるフードの女
「仕方ないですわ、3人とも大声で叫んでしまいましたもの」
ゴブリンの少女
「メ……お姉ちゃん、おじちゃん。大丈夫…?」
侵入者は捉えていたゴブリンを助けに来た様子だった。
両陣営に緊張が走る。
流し目の男
「一応聞いとくけど、アンタ冒険者じゃないよね。情報を見ても同じシステムで動いては無さそうなんだけど」
陽気な男
「NPC?でも無さそう。でもプレイヤー?でもあり得ない。これは…レア!レアイベントの予感!」
頼りなさそうなフードの男
「答えるつもりはないんだけど、こっちも質問いいかなぁ。このまま見逃してくれるってのは」
流し目の男&陽気な男
「無い」
頼りなさそうなフードの男
「っはは。ですよね〜」
威厳のある男
「…愚かな侵入者よ。倒す前に名を聞いておこう」
「………っへへ」
「名乗る名などありませんわ!」
「っ!ありませんわ!」
威厳のある男
「…ふぅむ。礼儀もなっておらんとは…。まぁ良い」
大男はマントを翻し、装備を露わにした。
残り2名も武器を呼び出し、装備が身に纏われた。
クレイジーパレット
「イベントマニア、クレイジーパレット!」
レン
「帝弓の炎月…レン」
威厳のある男
「そして俺が、炎鳥の騎士団ギルドマスター」
バーンフレイム
「強剣剛盾のバーンフレイム。ギルドハウスに侵入する不届きものに鉄槌を下す」
ギルドランキング97位の実力を誇る炎鳥の騎士団は、侵入者の駆逐体制に移った。
その様子を見たフードの男は、汗を拭いながらこうぼやいた。
頼りなさそうなフードの男
「やれやれ…偉いことになりそうだ」




