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第6話 ガルディオン奴隷市場


エレベーターが停止した。


谷底に落ちないよう、慎重に降りる。


俺たちが降り立ったのは、ガルディオン下層部。


標高310メートルから320メートル地点

ガルディオン下層部だ。


淀んだ空気が漂っている。

上層部と中層部の影が落ちるこの場所は、まだ昼だというのに夜のように暗かった。

そこで暮らす人々の目はどこか恐ろしく。

酒の匂いと、犯罪の匂いがあたりを漂っていた。


・・・フィールド「ガルディオン下層部」


「ここが下層部、中層とかなり雰囲気が違うんだな」


「えぇ、あまり居心地のいい場所では無さそうです。目的地に急ぎましょう」


メルティアは焦るようにそう言った。


俺たちの目的は奴隷市場。

メルティアは過去、奴隷の身分にまで落ちた。

だからこそ所持金は少ないが1人でも奴隷を買って苦しみから解放したい。


解放した後、その人さえ良ければギルドに入ってもらいたい。


そうメルティアは話していた。


しかし、中層部同様ここもかなり広そうだ。


奴隷市場はどの方向にあるやら。


「よぉ、お2人さん。中層部から来たのかい?…ヒック」


エレベーター前で立ち尽くしていると下層部の住民らしき男に絡まれた。


顔は赤らんでおり、酒くらい。


聞くまでもなく酔っ払いだ。


「ご明察ですわおじ様。奴隷市場に行きたいのですがご存じありませんか?」


メルティアは普段より畏まった口調で話した。


「おぁ?奴隷市場?それならこの道をまーっすぐ行ったところだがぁ。そんな事よりお嬢ちゃん、えらいべっぴんさんだぁ。良かったらうちに…あれ、どこ行った?」


男はふらふらと辺りを見渡していた。


俺たちは足早にその場を離れた。


「情報は取れました、急ぎましょう」


「おっ、おう」


メルティアの迅速な話術により、俺たちは奴隷市場へと向かった。


    ◇


施設<ガルディオン奴隷商店>


ガルディオン下層部に位置する古めかしい建物。

亜人、獣人、マモノの商品を取り扱っている。

ギルド<ピュアカンパニー>が所有中。




「…見ない顔だ」


受付で肘をついた大柄な男がこちらを睨みながらそう言った。

ここは先ほどのメルティアを習い、下手に出てみるか。


「やぁ〜どうもぉ。景気はいかがですかな旦那。奴隷を買いたいんですが頼めますかね?」


「…なんですの、その喋り方」


「お前を習って参考にしたんだよっ!」


「ワタクシがこんな喋り方をいつしたっていうんですの!?」


「………入れ」


大男は立ち上がると言葉少なく、暗い店内に入って行った。


身長は3mを雄に超えていた。


店に入る前、何も起きないことを俺は祈った。


    ◇


大男の後ろを俺たちは着いていく。

店の奥は、岩壁の洞窟と繋がっているようで大男の持つロウソクが無いと何も見えないくらいだ。



道中、檻に入れられている様々な奴隷を見た。


檻から出せと怒るもの。

俺たちを見て笑う者。

檻の隅で泣いている者。


メルティアは奴隷達をどこかやるせない表情を浮かべながら眺めていた。


俺も腹の底で嫌なものが渦巻いている感覚になって、早くここから出たいと心からそう思った。


「お前たち、所持金は」


「861Gですの、これで買える奴隷を見繕ってくださいまし」


「むぅ、それじゃ大した奴隷は買えんぞ」


しばらく歩いた後、大男の足が止まった。


「その金で売れるのは、ここら辺だ」


檻には小さめのマモノや動物、中には渓谷のミートファングもいた。


人らしき奴隷は1人もいないように思えた。


するとメルティアが何かを見つけたように走っていった。


首を傾げた俺、大男もメルティアを追いかける。


メルティアは1つの檻の前に座っていた。


「ねぇ、この子は?」


檻の中にいたのは小さなメスゴブリンだった。


「こいつはエリザ。年は分からない。何年もここにいる。力が弱く、見栄えも良くない。だから売れない」


「コーヘイ、いいかしら?」


「あぁ、勿論だ」


「店員さん、ワタクシたちはこの子を買います」


「…分かった」


大男は鍵を開けた。

少女は怖がって檻の奥で震えていたが、大男が優しく手招きすると近づいてきた。


よく見ると檻の中は綺麗に整えられており、食事の後もある。


この大男は思っているよりもずっと優しいのかもしれない。


帰り際、ゴブリンを連れていく大男が小さな声で


「…良かったな」


と呟いたのが聞こえた。


    ◇


俺たちは支払いを済ませ、エリザの引き取り手続きを進めた。


エリザの値段は500G。


手続きをしている間も、エリザは終始無言を貫いていた。


やがて、大男は大きな金属製の判子のような物を取り出した。


「逃亡防止の焼印だ、これを背中に焼き付ける事で逃げられない魔法がかかる」


「それは必要ありませんわ」


「押さねば奴隷が逃げるかもしれないぞ、いいのか?」


「その時はその時よ」


「…分かった。ではこれにて取引は成立。帰られよ」


俺たちはゴブリンの少女エリザを連れて、店を出た。

中層部へ続くエレベーターまでメルティアはずっと少女の手を握っていた。


「何も怖くないからね」


「……………」


「もう安心だから、何も心配なんてないからね」


「……………」


「…コーヘイも何か言いなさいよ!」


「あ、あぁ…。そのぉエリザ?困ったことがあったらなんでもおじさんに言うんだぞ〜!」


「……………」


エリザはずっと足元を向いて、口を開かなかった。

その様子を悲しげにメルティアが見つめていた。


…こうして、俺たちはギルドメンバー候補となる元奴隷の少女エリザを仲間に迎えたのだった。





    ◇


下層部300メートルから310メートル。

ガルディオン最下層。

深くローブを被った怪しげな人物がガルディオンを見上げていた。

ローブの隙間からは鈍い銀色の鎧が光っている。


「やぁ、見つけたかい?お目当ての人物は」


朗らか声と共に槍を持った青年が現れた。

青年は槍を肩に担ぎながらローブの人物に話しかける。


「あぁ。しかし予想よりも警備が厳重だ。応援を呼ばなくては」


「…えぇ〜!?僕ら2人でも余裕でしょお!?こんなボロい街、僕だけでも簡単に壊せちゃうぜ?」


「準備は大切だ。…そうだろう」


「…ちぇー!分かったよ。ってか分かってるし!相変わらず硬いねぇ〜?いつか石になっちゃうんじゃない?」


「………」


ドス黒いなにかが、渓谷の底で蠢いていた。


名前:エリザ


種族:ゴブリン


職業:無し


称号:無し


レベル:2


生命力:137


筋力:8


耐久:7


敏捷:9


知力:9


運:2


スキル:無し


装備:無し


所持品:解放の英雄アルセインの絵本


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