第3話 保留
前回までのあらすじ
社会現象を巻き起こしている次世代フルダイブ型MMORPG -sttela online-
凸砂ゲーマー、コウヘイの初ログインはまさかの戦場へのスポーンだった。
なんとか戦場を脱出したコウヘイは、フィールドの端でマモノに襲われているNPCを見つけた。
職業<見ならい銃士>を選択したコウヘイは、マモノを打ち倒し、NPCの危機が去ったことを確認すると、足早に戦場を去るのであった。
◇
戦場を去り、小さな森を抜けた。
森の先には大きな平原が広がっていた。
すると、システムが自動で解説をしてくれた。
フィールド<テリウス平原>
デュラ大陸に広がる穏やかな土地。
レベルの低いマモノが多く、初心者冒険者が多く訪れるフィールド。
この土地で暮らすシープからはホワイトウールが取れるため<裁縫士>も多い。
『ボルライト渓谷』『囁きの森』と隣接。
平原の多くの場所で清流『カラウムリバー』が流れている。
「草原か、ちょくちょくマモノもいるようだな」
世界の用語<マモノ>
特殊な力を操る生き物の総称。
マモノと動物との違いは見た目や能力に、魔素を利用した特殊な変化が見られること。
多くのマモノが冒険者を襲う攻撃的な性格だが、中には人類と友好関係を築く者もいるそうだ。
風が吹き抜けた。
まるで現実のように気持ちいい。
足元の草がその全てが一斉に揺れる。
一本一本の葉が異なる方向になびいた。
陽光を受けてきらきらと輝いている様子は現実となんら変わらなかった。
先ほど森の木に触れてみたが、ごつごつとした樹皮の感触まで、妙に生々しくこれがゲームだとは到底思えなかった。
視界に広がる世界は余りにも大きく美しく。
1つも途切れる事がなく、雄大な大地がそこにはあった。
「あれは…俺と同じ初心者プレイヤーみたいだな」
平原には多くの冒険者がいるようだった。
先ほど、戦場で見た冒険者と比べると明らかに戦い慣れしておらず、装備も軽そうだ。
小型のスライムに剣を振り回している冒険者は、攻撃を交わされて、パーティーの仲間であろう冒険者がそれを笑っていた。
その他にも、草むらで素材を採取する者。
羊のような動物から毛を刈っている者。
それぞれが思い思いに行動しているようだった。
突然、俺の前にもマモノが現れた。
マモノ<ブルースライム>
ぷにぷにと動く可愛いマモノ。
フィールドのアイドル的存在。
冒険者の中で、その可愛らしさに魅入られた者は多く、スライム同好会というギルドさえも存在している。
システムの解説を聞き終わるや否や、俺はライフルを構えた。
照準の先で、ブルースライムがぷるんと体を揺らす。
コウヘイ
「っはは、どうも」
引き金を引く。
乾いた銃声が平原に響き、弾丸がブルースライムのこめかみを撃ち抜いた。
青い体が大きく震え、そのまま弾けるように消えていく。
初めてのマモノを倒した余韻に浸る間もなく、草むらから次々とスライムが飛び出してきた。
グリーンスライム、レッドスライム、オレンジスライム。
ライフルを構え直し、飛び跳ねるグリーンスライムに一発叩き込む。
続けて、横から迫るレッドスライムにも一発。
最後のオレンジスライムが高く跳ねた瞬間、俺はライフルをくるりと回転させ、照準を合わせて引き金を引いた。
オレンジスライムも弾けるように消えていった。
<レベルが上昇しました>
「おっと、レベルアップか」
【STATUS】
名前:タカノコウヘイ
種族:人間
職業:見ならい銃士
称号:無し
レベル:1→2
生命力:100+5→105
筋力:5+3→8
耐久:8+4→12
敏捷:3+4→7
知力:9+2→11
運:2+1→3
スキル:なし
装備:シングルアクションライフル
所持金:0
「……これは、時間が溶けるやつだな」
俺そう言って頷くのだった。
◇
程なくして俺は街に到着した。
街<オヨーテの街>
デュラ大平原の中に栄えた交易都市。
商人や初心者冒険者が多く滞在する歴史ある場所。
現在、ギルドランク74位『デュミナスブレイカー』が街を所有中。
レンガ造りの建物が幾重にも連なっている。
街の中央部に向かっての緩やかな上り斜面を埋め尽くすように、家や商店が所狭しと並んでいた。
建物の間では、色とりどりの旗が風にはためいており、小道には露店が開かれ、商人の呼び声が街を賑やかしていた。
光沢のある鎧を着込んだ冒険者。
魔法使い風の美しい女性。
巨大な荷車を引く馬のような生き物。
猫のような獣耳と尻尾の生えた人たち。
様々な冒険者とNPCが、活き活きと生活していた。
俺はヨーロッパ中世期の建築思わせる街の姿を眺めながら、ゆっくりと歩き始めた。
足元の石畳には細かな凹凸があり、靴底から伝わる感触まで本物のようだ。
露店の前を通る際には、焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐった。
腹は空いているが、所持金は0G。
こんなところにまで拘るのかと思った。
俺は、冒険者に仕事を紹介してくれるという「冒険者酒場」を探すことにした。
施設<冒険者酒場>
どの街にも必ず存在している重要施設。
冒険者の募集、依頼の受託が出来る施設、料理や酒類の購入が出来る。
街の中央広場近くの場所に、冒険者酒場を見つけた。
扉を開けると、店内は多くの冒険者で賑わっているようだった。
俺は冒険者たちを交わしながら、壁際の掲示板に向かい、依頼を確認した。
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討伐依頼。
素材採集。
ダンジョン攻略。
護衛任務。
子猫の捜索。
………
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俺は簡単そうな素材採取の張り紙を剥がして、依頼カウンターの受付に向かった。
「この依頼を受けたいんけど、いいかな」
真面目そうな受付の女性
「かしこまりました。少々お待ちください」
彼女はそう言うと、机の下でしばらく書類を確認していた。
数十秒経ち、彼女は困り顔でこう話した。
「大変申し訳ございません。この依頼はあなたに受給資格が無いものでございます」
どういうことだ?
俺は理由はなぜか、なぜ出来ないかと質問したが、受付の女性は出来ませんの一旦貼りだった。
不思議に思いながらも、俺は掲示板に戻り、今度は討伐の依頼書を持って、先程とは違う受付の男性に話しかけた。
しかし、結局俺はどの依頼も受けることが出来なかった。
4人組の冒険者が先ほど俺が受けようとした素材採取の張り紙を持って受付をしようとしているのが見えた。
程なくして許可が降りた様子で、冒険者達はそそくさと酒場から去っていった。
コウヘイ
「どういう事だ…?」
テーブル席に腰掛けながら俺はなんとも言えぬ不安を感じていた。
よくよく考えてみると違和感はこれまでにいくつもあった。
・初ログイン地点が、明らかにレベルの合っていない戦場であった事
・システムを開いてもログアウトボタンが見つからないこと。
・そして自身の体が作成したアバターではなく、本来の自分の姿であること…。
何か、よく無いことが起きている気がする。
正解の分からない不安と、やけにリアルな空腹のせいで俺は次第にこの状況が恐ろしくなってきていた。
そのときだった。
「あなたは…」
透き通った少女の声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げると、そこには1人の少女が立っていた。
赤いドレスにも見える軽装を見にまとっている。
整った顔立ちに、瞳は吸い込まれそうな青色。
髪は美しい金色で、クルクルと巻かれていた。
彼女は数時間前、戦場でマモノに襲われていた時、仲間を守っていた盾持ちのNPCだった。
女の子は冒険者を掻き分けてズカズカと俺の方に歩いてくる。
「先ほどあなた!戦場にいらしたわね!」
「あ、あぁ…」
女の子は俺の返答にとても驚いた表情をした。
そして直ぐにパァッと明るい笑顔になって
「先ほどはどうも…」
と感謝を告げてきた。
「い、いやぁいいよ別に。大したことじゃ無い」
いやぁ。
面と向かって感謝されるのは照れるもんだねぇ。
現実でもほとんど人と喋っていなかったら余計に嬉しい。
やはり助けてよかった。
NPCだろうが冒険者だろうが、人が死ぬシーンを見たくは無いからね。
「先ほどはどうもやってくださいましたわねぇ!?」
「……ハァ!?」
一体、何が起きているのだろうか。
「貴方があのマモノを倒して下さったあと、私たちの方へ来て、仲間を一緒に連れて帰ってくださると思ったら!貴方1人で消えて何処に行きやがったんですの!?おかげで私がゴンダスを抱えて帰ることになったじゃありませんの!!」
なんという事でしょう。
俺の一撃で命を救われ、恩人様と尊敬してくれると思っていた女の子が。
今、俺に対してもの凄い喧騒で怒り散らかしている。
「なんだとゴラァ!俺が撃たなかったらお前死ぬところだったんだぞ!命の恩人に向かって感謝の一言もなくなんだその態度はぁ!?」
女の子
「なんですのお!?」
コウヘイ
「なんだコラァ!」
コウヘイと女の子は睨み合い、互いにそっぽを向いた。
お互いに背を向けたまま、時間が流れた。
少しして、女の子が口を開いた。
メルティア・マリィベル
「ワタクシはメルティア。メルティア・マリィベルですの。このオヨーテの街を拠点に冒険活動をしていますわ…!」
「その…先ほどはありがとうございました。
それと…ごめんなさい。ワタクシその…素直じゃなくて」
メルティアと名乗った少女はそう謝って来た。
コウヘイ
「いや、まぁ…俺も言いすぎた。悪かったよ」
互いにゆっくりと向かいあった俺たちは、気まずそうにしながらテーブルに腰掛けた。
「その、あなたの名前も伺ってもよいかしら」
「あぁ、俺はタカノコウヘイだ。コウヘイで構わない。最近このゲームを始めた初心者冒険者ってところだ」
メルティア・マリィベル
「ゲーム?…ゲームっていうのはなんなんですの?」
メルティアは不思議そうに俺の顔を見てそう言った。
コウヘイ
「あぁ、悪い。わかんねえよな。まぁとにかく!俺は最近この辺りに辿り着いた冒険者ってとこだ!」
俺はお茶を濁すようにそう話した。
コウヘイ
「実は今、所持金が無くてさ。それで仕事を探しにここに来たんだ。だけど、どうやら俺に出来る仕事はここにはないらしい」
俺はここにいる理由を出来るだけ分かりやすく説明した。
「そうでしたのね…。その…コーヘイさえ良ければワタクシが食事を奢ってもいいのだけれど」
「おっ助かるよお!実はさっきから腹がぺこぺこなんだ」
「ふふっ、あまり高い物は買えませんが…ご了承くださいね」
見たところお嬢様のような姿に見えるが、意外とそうでも無いのだろうか。
いや、奢ってくれるというのに、何を失礼な事を考えているんだ、俺の馬鹿やろう。
メルティアは俺に、パンと肉入りスープを奢ってくれた。
パンは硬く、肉は入っているか分からない。
お世辞にもうまいとは言えないものだった。
しかし、メルティアの好意がとても嬉しかった。
メルティアにお前食べないのか?と聞いてもお金がないからと断っていた。
少し申し訳なさを感じながら、俺はその料理を完食した。
腹が膨れ、とても幸せな気持ちになった。
俺が食べ終わった後、メルティアが口を開いた。
「ねぇ、コーヘイ?実は、わたくしも仲間を探しておりましたの」
メルティアは話を続けた。
メルティア
「これまで一緒に冒険をして来た仲間が先ほどの戦いで怪我をしてしまって…。先ほどパーティーは解散。ワタクシは今現在、孤独の身なんですわ」
戦場にいた彼らは、俺が思っていたよりもずっと重症だったらしい。
思えば仲間の1人はあの時、片足を失っていた。
恥ずかしいなど思わずに助けにいけば良かったと、俺は自らの行動を反省した。
「でもワタクシはまだ旅をやめたくありませんの!共に戦ってくれる仲間が欲しいんですわ!」
「…だからコーヘイ!」
メルティアは机をバンっと両手で叩き立ち上がった。
「ワタクシとギルドを作ってくださいまし!」
「ギルド…?」
メルティアの提案は俺の斜め上を行くものだった。
「えぇ、ギルドです。約3ヶ月前でしょうか。この世界にギルドという言葉が生まれました。ギルドに所属している冒険者は、何かワタクシたちとは違う様子で…。ワタクシとは違う強さ、違う何かがあるように思いますの!」
3ヶ月前…sttela onlineが発売された時期だ。
そしてギルドに所属する冒険者。
これはゲームを遊んでいるプレイヤーのことだろう。
「だからコーヘイ!ギルドを作り、どうか私の仲間になってほしいのです!」
話している間ずっと思っていたことがある。
このメルティアという女の子。
話を聞けば聞くほど、ただプレイヤーの会話に答えるだけのNPCには思えない。
まるで本当に。
本当に生きている人間のように思えてしまう。
「…コーヘイ?」
メルティアは俺の顔を覗き込んでいた。
覗き込むメルティアはどこか、自分の作ったアバターのような姿をしていた。
その美しい姿に、俺は慌てて転んでしまった。
「コーヘイ!?大丈夫ですの!?」
「いってて…大丈夫。…大丈夫だ。っはは…。
あぁ、かっこ悪いなぁ…俺」
俺は頭を掻きむしった。
掻きむしった頭は少しベタついていた。
全く、どこまでもリアル嗜好なゲームだ。
「…決めた!」
俺は自分の顔をはたき、立ち上がった。
「作ろうぜギルド!メルティア!俺たちは今日から仲間だ!」
NPCだからとか、プレイヤーだからとか。
今はもうどうでもいい。
ただ彼女の力になりたい。
そう思い、俺はメルティアに拳を掲げてそう言った。
「……っ!はいですわ!」
メルティアも自身の拳を交差するように突き出した。
そして…システムの声が聞こえた。
<ギルドの設立を完了>
<「タカノコウヘイ」をギルドマスターに着任。並びにギルドメンバー「メルティア・マリィベル」をサブマスターに昇格させます。成功しました>
「…今の声は一体!?」
「システムってやつじゃねえのかな、よく分かんねぇけど」
<続いてギルドの名称を決定してください>
「ギルド名…か。メルティア、何か思いつくか?」
「そ、そんな急に言われても思いつきませんわ!」
「そうだよな…。ん〜システムさんよぉ。保留とかって出来ないの」
<…………出来ます>
「よっしゃ!じゃあ保留で!」
「保留でお願いしますわ!」
<…了承しました。ギルド名<保留>のギルド設立を確定させます>
今ここにギルド名<保留>が誕生した。
「よっしゃああああ!!!」
「こ、こんなにあっさりと…出来るものですのお!?」
俺は喜びの声をあげ、メルティアは驚きの声をあげている。
「メルティア、これからよろしくな!」
「え…えぇ!よろしくお願いしますわ!コーヘイ!」
これならどうなるかは全く分からないが、愉快な冒険になりそうだ。
こうして、コウヘイ、メルティアによるギルド<保留>が誕生したのである。
◇
ギルド設立の後、冒険者酒場にて…
コウヘイ
「ところで俺、ログアウトとか出来ないんだけど理由とか知ってる?」
メルティア
「ログアウト?コーヘイ…先ほども思いましたが貴方よく分からない言葉を使いますのね…」
コウヘイ
「あぁ、悪い悪い。そうだなギルドとかを作っているプレイヤーがいるだろう?そいつらが突然消えたりするの見た事ないか?」
メルティア
「それなら知っていますわよ!消失、再誕の魔法の事ですわね!でもコーヘイ。貴方はあの方たちとは違うのでしょう?」
コウヘイ
「ん?どういうことだ?」
メルティア
「私たちは、あの不思議な雰囲気を持つ方々に話しかけられる事はあっても、こちらから話しかけたり何かをする事はどうしてか出来ませんの」
コウヘイ
「えっ?でも俺は現にメルティアと話せているんじゃ」
メルティア
「えぇ、その通りですわ。ですから、ワタクシが思うにあなたは恐らく私たちと同じ。この世界で」
メルティア
「『生きている存在』なんですわ」
◇
【ギルドメンバーが1人加わった!】(在籍2名)
名前:メルティア・マリィベル
種族:人間
職業:大盾使い
称号:無し
レベル:13
生命力:268
筋力:47
耐久:62
敏捷:39
知力:40
運:14
スキル:ビッグシールド
シールドアタック
バトルアピール
装備:マリィベル家の大盾
所持金:1251G→1051G




