同盟と戦略2
「そうだ。リアンツァと同盟を組んだ」
部屋の空気が、音を立てて止まった。
「……いま、なんと」
最初に声を出したのは、ラウレンツだった。いつもの軽さが、跡形もない。
「同盟だ。書面は交わしていない。密約だ」
ジルヴェスターは、灰色の目を光らせた。
「内容は二つ。互いに戦を仕掛けないこと。そして——互いに、帝国からの襲撃があれば助けること」
「陛下」
ラウレンツが身を乗り出した。
「あの川が上流へ流れると言われたほうが、まだ信じられます。……本気で仰っているのですか。あの国とですぞ。去年、うちの若いのを二人」
「知っている」
「ですが、その王太子に、どこまで決定の権限があるのです。それは、国と国の同盟になっているのですか」
ジルヴェスターは、ラウレンツに鋭い目線を向けた。
「その指摘は尤もだ。あの国は二分している。国王は、甥である王太子が王位を狙っていると疑っている。……今回の同盟は、チェーザレ王太子との同盟に過ぎない」
「では、成り立たんではないですか」
ラウレンツの声が荒くなった。
「チェーザレ王太子は、王位継承権を放棄してでも国王を説得すると言った」
ジルヴェスターは、そこで一度、言葉を切った。
部屋が、しん、とした。
「陛下は、それでよいと。組むと仰るのですか」
ジルヴェスターはすぐには答えなかった。何かを考えていたようだったが、話しはじめたときには、目に迷いがなかった。
「そうだ。……皆も知ってのとおり、アルダーンはここ数年、帝国の圧力を跳ね返してきた。鉱山の共同開発の申し入れを断り、皇女との縁組の申し入れも断っている。目をつけられる理由は、ほかにも山ほどある」
何人かの騎士が、ちらりとクラリスを見た。
皇女の話が出たからなのか、シェルナとの縁が影響していると思われたのか、それはわからなかった。
「リアンツァの話は、筋が通る。そして、帝国が狙っているのがアルダーンだとすれば——この同盟でいちばん救われるのは、我々だ」
ジルヴェスターは苦渋に満ちた表情であったが、声からは確信が感じられた。
「信用しきれなくても、組まれたと」
「ああ、そうだ。信じられる相手としか組めないなら、この大陸で組める国など、どこにもないだろう」




