帰還
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一日目の日の入り。輪が出た。
二日目の日の入りも、出た。
三日目。四日目。
クラリスは、南の翼のベランダに立って、掌の石を握る癖がついた。日が稜線に触れるのを待って、マナを流す。一拍、二拍。細い煙が立ち上って、輪になって、散る。
それだけの、ほんの十数える間の出来事だった。
その十数える間のために、一日が回っていた。
「奥様。今日で何度目です」
五日目に、ルークが訊いた。
「何度も何もありません。日の入りだけです」
「板のほうです」
言われて、クラリスは手を止めた。追跡の板に、いつのまにか指を置いていた。
「……三度目です」
「正直でよろしい」
彼はあくびをした。
結局、自分の気持ちを満たすためだけの対の石の魔法式開発に時間をかけていたことはルークに知られてしまった。
だが以外にもルークは馬鹿にすることはせず、そうですかと言っただけでした。
七日目の朝、リタが髪を梳きながら言った。
「そろそろでございますね」
「早くて八日、遅ければ十日と聞いてる」
「では、明日でも不思議はございません」
八日目は、何も起きなかった。
朝から中庭の音を気にして、昼に一度、外門まで見に行った。何もなかった。夕方にもう一度行って、やはり何もなかった。
一緒に着いてきてくれるニクラスはいつも少し気まずそうにクラリスをみていた。
日が沈んで、石を握った。輪が出た。
——生きてはいる。
それだけを確かめて、部屋に戻った。
その夜は、なかなか寝つけなかった。八日で来なかったということは、九日か、十日か、それより後だということだ。会談が長引いたのか。帰りに何かあったのか。石は、そのどちらも教えてくれない。
蹄の音が門に届いたのは、九日目の午後だった。
クラリスは書庫にいた。窓の外が急に騒がしくなって、羽根ペンを置いて立ち上がる。ニクラスが扉から顔を出したときには、もう廊下へ出ていた。
「奥様、陛下が」
「わかってる」
中庭へ下りる階段で、息が上がった。
内門をくぐってくる列が見えた。
数えた。
一、二、三——
十。
十騎、いる。
膝の力が抜けそうになるのを、手すりを掴んで堪えた。全員、埃だらけで、何人かは腕や肩に布を巻いている。それでも、十人だった。
先頭のジルヴェスターが、こちらを見上げた。
疲れた顔をしていた。それから、いつもの笑い方をした。
クラリスは急いで駆け出す。
息を切らせながら中庭に飛び出すと、馬から降りていたジルヴェスターに抱きついた。
「…よかった。お帰りなさい」
ジルヴェスターは目を丸くしていたが、抱き返し、声を出して笑った。
「こんなに熱く迎え入れてくれるならさっさと帰ってきてもよかったな」
ふと離れて周りをみると、多くの騎士が暖かく見守るような、少し驚いたようなそんな顔で見ていた。
クラリスは恥ずかしくなり、慌てて離れようとしたが、逆にジルヴェスターに抑え込まれた。
そしてあごを掴まれ顔を上げさせられるとキスで口を塞がれた。
目の端にヴィートリヒが見える。天を仰いでいた。
「このまま部屋に連れて行きたいがまずは軍議だ。」
ジルヴェスターはそっとクラリスを話すと静かにいった。




