聖国からの使者2
ルークの予想どおり、その後すぐに軍議が開かれた。
リタが急いで支度をしてくれたが、髪を結い上げる時間はなく、そのままおろして部屋に入る。
めずらしくジルヴェスターがすでにいて、二人掛けの長椅子を広々と使い、長い足を組んで座っていた。
顔を上げた彼は、クラリスを見つけると、隣を指した。
「クラリスはこっちにおいで」
周りの騎士たちの様子をうかがいながら、遠慮がちに肘掛けすれすれに腰を下ろす。すると、肩に手を回されて引き寄せられた。気づけば、ぴったりとくっついて座る格好になっていた。
顔が熱くなるのを感じながら見上げると、彼はにっこりと微笑んだ。どこまでも整った顔がすぐそこにあって、声にならず、ただ口をぱくぱくとさせる。
慌てて卓を囲む騎士たちを見ると、皆が見て見ぬふりをしていた。
ラウレンツだけが、面白そうにこちらを眺めて口を開く。
「とうとう陛下も、我慢はおやめになったんですね。……まあ、ヴィルス王太子のあの人目を気にしないいちゃつきぶりを見せられたら、我慢もできなくなりますか」
ジルヴェスターはラウレンツを一瞥し、それを無視した。
「全員揃ったな。始めるぞ」
何ごともなかったように軍議へ入っていく夫を見て、クラリスは、自分ばかりが気にしていることを恥ずかしく思った。
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「やはり、魔人復活の可能性は高いようだ」
彼は卓の上に、一枚の紙を広げた。
クラリスはそっと肩の上の腕をどけ、立ち上がって紙を覗き込む。聖国からの知らせのようだった。
リアンツァとの戦だけでなく帝国や魔人までも考えないいけない状態であることが信じられなかった。
「聖国も、予兆を数えている。獣の増加、冬の南下、地の熱の下がり。……向こうの記録に符合するものが、七つのうち五つだそうだ」
「七つのうち、五つ」
ハーゲンが低く繰り返した。
「その七つが何であるかは、書かれていない。訊いても、たぶん答えん」
短い沈黙のあと、ディートリヒが眉を寄せた。
「陛下。……失礼ながら、返書にしては早すぎませんか」
「早い」
「我らが使者を発たせたのは、二十日前かと。聖国まで、早馬で片道二十五日はかかります」
「ああ、おそらく着いていない」
ジルヴェスターは、筒を卓に置いた。
「向こうは、こちらが訊く前に、これを書いて送り出している」
部屋が、静まり返った。
クラリスは、おろしたままの髪を耳にかけながら、その紙を見ていた。
つまり聖国は、アルダーンが問い合わせたから返答したのではなく、その前からアルダーンが何に困っているかを、知っていたことになる。あるいは——知らせるべきだと、向こうが判断したということだ。
八百年、西の外れで動かなかった国が。




