お願いごと
そのあと2人はまた馬に乗って帰ってきた。山道とは違い、危険もない道をのびのびと馬でかけ、クラリスはもやもやしていた気持ちが少し晴れやかになっていることに気づく。
その夜、クラリスは部屋で落ち着かずにそわそわしていた。リタが今日は公務もお休みだから陛下は絶対に早く来られるから、魔法は禁止だといい、紙もインクも全て持っていってしまったのだ。
だだ本当にジルヴァスターは寝室に早くきた。
湯上がりの髪をおろしたまま、寝台の端に腰かけて、昼間の外套の王妃の掛け声の話や繊維産業の話(あの生地には、最近鉱山でとれるようになった砕けやすいが輝く石の粉を練り込んであるらしい)などをした。
話しながら、彼の手が、クラリスの髪に触れた。
指が髪をすくって、耳の後ろへ流す。その手つきで、この先の気配が、なんとなくわかった。自分の心臓が割れるようにどきどきしているのが分かる。ジルヴェスターの目を見つめると、彼の目も熱を帯びているようだった。彼はクラリスの肩を押し、ベッドに倒す。
ジルヴェスターの口元が近づいてきたところで、クラリスは、突然彼の口に手をあてた。
「陛下。お願いがあります」
伸びてきた手が、止まった。
「わたしを、軍議に入れてください」
沈黙が、数拍あった。ジルヴェスターは口からクラリスの手を離したが手は強く握りしめたままだ。
「……いま、それを言うか」
「….今しかないと思って。」
そう正直に言うと、ジルヴェスターは目を見開いて、それから、耐えきれなくなったように笑い出した。声を立てて、長いこと笑っていた。こんなに笑うところを見るのは、初めてだった。
「まいったな」
彼は目尻を拭いながら言った。
「正直、クラリス。きみをどうコントロールしていいか分からない。僕はきみを僕の庇護下に置いておきたいんだ。だがお願いしても守ってくれそうもないから、色仕掛けで落とそうとずっと思っていたんだ。….だが、このタイミングで逆にお願い事をしてくるとは」
クラリスはジルヴェスターの美しさに魅力されながらもずっとお願いするタイミングを考えていた。だが、ジルヴェスターの笑いで我に返ると、何と身の程知らずのことをしたのかと頬が熱くなる。
「わかったよ。次から、席を用意させる。だが、絶対に傷つくようなことや無茶はしないと約束してくれ。………それから」
「それから?」
「僕のことはいい加減名前で呼んでくれないか?ジルでいい。…さて、願い事は済んだので、ここからは、僕の番だ。僕にもっと夢中になって、僕の言うことを絶対に聞くようにしてしまおう」
返事をする間も無く、クラリスの口は彼の唇と舌で抑えられた。
口が一瞬離れた時、金の髪が揺れて、燭台の光を持っていくのがみてた。ずるい色だ、といつものことを思ったのが、その夜、まともに考えられた最後だった。
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