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帝国攻め6

魔法を展開したあと、足場を伝い、屋根を渡っていく。


石葺きの屋根は、霜が凍りつき滑る。セラフィンは、その上を、平地を歩くように渡っていく。だが、クラリスは、四つん這いになりかけながら、ジルヴェスターに腰を支えられて、なんとかついていった。同時に、粉の膜は、石の粒で組んだせいで、いつもより粗く、風が吹くたびに剥がれそうになる。魔石を握りしめて、式を保ち続けた。


そしてとうとう、主塔の壁に、着いた。


太い塔だった。壁には、ところどころ、石の出っ張りがあって、そこを足がかりに、少しだけ移動することができた。六人は裏側から表側に少しだけ移動をする。


すると、戦場が、見えた。


真っ暗ではあるが、遠くに火が幾つも見える。その火の中で、時折、赤い球が上がって、白い光のシールドが幾つもともっている。


クラリスは、胸を撫で下ろした。魔獣はあそこまで引きずり出されたのだ。城からあだけ離れれば、司祭の目も届かなく、コントロールされることもないだろう。




「……少し、引くのが早すぎるな」


隣で、ジルヴェスターが、低く言った。


「え……」


「予定より、遠くにいくのが早い。……こんなに引いてしまうとあっちが囮だと、勘づかれるかもしれない」


クラリスは、もう一度、戦場をみる。言われてみれば遠いのかもしれない。引くのが早すぎれば、本気で攻めてないのが分かり、侵入者がいることを勘づかれるかもしれないと納得した。



そしてその勘はすぐに当たっていたことが証明される。

塔の壁に、中へ入る口を探して、四人で張り出しを回っていたとき、セラフィンの暗く青い瞳が、遠くの空を見て、動きを止めた。


ワイバーンが、戻ってきていた。


戦場の方角から、まっすぐに、城へ戻ってくる。


クラリスは、背筋が冷えた。


「……すみません。ここは、土がないので、石を砕いて組んでいます。粒が粗くて……こんな、見えやすい場所だと、上からは、見つかるかも」


言いながら、必死に、塔の壁を見回した。張り出しの先に、小さな窓が幾つか並んでいるのが見えたが、まだ遠い。


ワイバーンは、みるみる近づいてきた。


一体が、塔の上の空に来て、大きく旋回しはじめた。二体目。低く、低く。翼の風が、張り出しの上まで届く。粉の膜が、その風で、めくれた。



「……風も強い。ワイバーンは目もいいから見つかるかもしれないな」


セラフィンが、淡々と言う。非難するような口調では無かった。


「ああ」


ジルヴェスターが、クラリスを抱き寄せながら答える。


セラフィンは、二人の聖騎士のうちの一人に、目で合図をした。聖騎士は頷き、身を低くしたまま、張り出しを逆に戻っていく。屋根を渡り、来た道を、遠くの塔へ素早く走っていく。


数呼吸のあと——遠くの塔の上に、白い光が、弾けた。


聖騎士の光魔法が夜空に、目を刺すほど眩しく光ったのだ。ワイバーンが、一斉に光の方へ首を向け、主塔から離れていく。


セラフィンはその先を見て少しだけ眉を寄せる。彼の瞳が揺れているように見えた。

だが、振り返った時にはいつもの無表情だった。


「……このまま外にいてはいずれ見つかる。月が明るすぎる。この窓から入ろう」


ジルヴェスターらいつの間にか侵入口を見つけたようだ。張り出しの先の窓に、手をかけた。


ガラスが、小さく割れた。彼が拳で、窓枠ごと押し込んだのだ。五人は、その窓から、塔の中へ、転がり込むように潜り込んだ。


——中は、軍議を行うような部屋だった。


長い卓と、椅子が幾つも並んでいる。だが、長らく使われてないのか、全体的に埃っぽかった。


クラリスが、誰もいなくほっとした瞬間、部屋の奥の扉が開いた。


帝国の兵が、一人、入ってきたのだ。ガラスが割れる音を聞きつけたのかもしれない。松明を持って、何気なく部屋を見渡して——四人を、見た。目が、見開かれる。口が、開く。大声を上げる、その一瞬前——


セラフィンが青白く光る短刀を投げ、それは兵の首に深々と刺さる。


兵士の首から血が溢れ出す。声を出せないまま、目を見開いたまま、崩れた。


だが、崩れた体が、椅子に当たった。


椅子が倒れて、石の床に、大きな音を立てた。大きな部屋の中で、それは、驚くほど響いた。


「……ちっ」


セラフィンが、小さく悪態をついた。


扉の向こうで、複数の足音が聞こえる。


「僕が引き付けますんで、行ってください!」

ディートリヒが早口でいったが、ジルヴェスターが腕を掴む。

「何人いるかわからない。引き付けてすぐに逃げろ」

とジルヴェスターは鋭い声でいった。


ディートリヒは頷くと、1人の聖騎士と共に足音のする方に駆け出す。


「行くぞ」


ジルヴェスターはディートリヒの背中をみて、クラリスの手を引く。セラフィンに合図を送ると部屋の逆側の扉を押し開けた。彼はあの中途半端な地図から全てが見えてたのか、道を知っているかのように、城内を走った。それから何度か角を曲がると、その先は塔の中央を螺旋を描いて上へ続く、石の大きな階段だった。松明が、壁に並んでいる。ジルヴェスター、セラフィン、クラリスは、駆け上がる。


クラリスは、ジルヴェスターに手を引かれていたが、息が切れ、何度も足がもつれた。それでも、とにかくジルヴェスターについていくように足を動かす。早くしないとジルヴェスターを守るどころか危険に晒してしまうだろう。


階段の終わりには大きな扉があった。


荘厳な、両開きの扉だ。黒い木に、銀の金具が止められている。


ジルヴェスターが、その扉に、両手をかけ、押し開けた。

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