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<第三部>再会

第三部スタートです。評価やコメントお願いします!

翌朝、クラリスは食堂へ降りた。


砦の食堂は広々としたホールで、もう人で溢れている。三つの大きな暖炉に火が入っていて、石の壁が朝の光と火の色を同時に受けている。パンとスープの匂いに、胃がぐうとなった。昨日まで落ち込んでいたのに、自分の気持ちの切り替えが恥ずかしい。


「奥様!」


ニクラスがすぐに見つけて、にこにこしながら、木の盆を運んできた。黄色いコーンスープ、厚く切った肉、蒸した根菜。湯気が顔に当たって、それだけでお腹が鳴った。


「ちゃんと料理人がいるんです。凄いですよね、砦でこんなもの。ラリア侯爵領の第二の城みたいです」


「……凄いですね」


スープを一口飲むと、甘くて、熱くて、体の芯が緩む。


けれど、食べながら、周りをじっと見る。侯爵の兵が、多い。昨日の敵。今日の味方。それはいいのだけれど——あの人も、いるのだろうか。


いた。


ホールの奥、窓際の長卓で、今日は騎士服ではなく、動きやすそうな深い青のドレスに毛皮の襟を合わせていて、髪は昨日と同じ高いところで結ばれている。剣を提げていなくても、背筋の伸び方が違った。エレガントで、堂々としていて、周りの兵が自然に道を空けている。


ただ、今日は、ジルヴェスターにはくっついていないらしい。


そのことにほっとすると、クラリスはスープに目を戻した。だが、またすぐにそちらを見てしまう。じとっとした目になっているのは、自分でも分かった。


「……奥様」


隣で、ニクラスが心配そうな顔をしていた。


「あの、僕なんかよりも、騎士団長殿とお話しされたいですか。やっぱり、女性同士のほうが……」


「え? い、いえ! 違います、そういうことでは……!」


純粋なニクラスをみて、自分の小ささが恥ずかしくなる。ニクラスは「ならいいのですが…」と、まだ少し眉を下げたまま、心配を浮かべる形の整った大きな瞳でクラリスを見つめる。


クラリスは慌てて食事に視線を戻し、規則正しく口にご飯を運ぶ。


なんとかお腹をいっぱいにして、部屋に戻ろうと席を立ったとき——


あのエリザベスが、こちらへ向かって歩いてきた。


周りの兵が道を空ける。近づくにつれて、その顔が、昨日のような自信に満ちたものではなく、少し緊張しているのが分かった。唇を一度、結び直している。


「アルダーン王妃様」


目の前で足を止めて、彼女は軽く膝を折った。


「昨日は、失礼いたしました。ラリア侯爵が娘、エリザベス・ラリアと申します」


「……クラリス・アルダーンです。こちらこそ、昨日は途中で失礼して」


エリザベスは、それきり、何も言わなかった。


言わないまま、クラリスの顔を見ている。何かを言いかけて、やめて、また言いかけて。青い釣り目が泳いでいた。


やはり何か、ジルヴェスターのやましいことがあったのだろうか。心の中に黒いもやが広がっていく。


クラリスが眉を顰めたのをみて、エリザベスがようやく口を開いた。


「あの、王妃様、実は——」


「騎士団長!」


ホールの入口から、兵が駆け込んできた。


「東門です! リアンツァと、アルダーンの兵が、到着しました!」


ホールがざわめいた。エリザベスは兵のほうを振り返り、それからクラリスに向き直って、少し口惜しそうに言った。


「……申し訳ありません。また、後ほど」


そう言って、青いドレスの裾を翻して、走っていった。


クラリスは、その背中を見送って、ため息をついた。やっぱり、ジルのことなのだろう。


それと共にジルヴェスターへの怒りも湧いてくる。ジルヴェスターの周りだけ土埃が舞い続ける呪いのような魔法式を頭の中で組み立てる。


だが、ニクラスの視線に気づくと、ため息をひとつ落として、クラリスも大広間へ向かった。


二階の回廊から見下ろすと、広間には、どっと騎士や兵士が流れ込んでいたリアンツァの紋にアルダーンの紋もみえる。東の戦線から三日、休まずに来たのだろう、皆、顔が煤けている。それでも声は明るくて、砦の兵と肩を叩き合い、笑い、誰かが早くも杯を探していた。


その中に、一人、目を引く男がいた。


短く刈った濃い茶の髪、日に灼けた顔、眉から頬にかけて走る古い傷が、爽やかさが滲み出す。軽やかな足取りで人混みを抜けて、回廊を見上げて——クラリスと目が合った瞬間、傷のある顔に、妙に人懐こい笑みが浮かんだ。


「おお! アルダーン王妃様まで来ていましたか!」


チェーザレだった。


「ジルヴェスターが片時も離さないと聞いていたが、こんなところまで連れてくるとね」


下から、大きく手を振ってくる。クラリスはチェーザレのことをそこそこ気に入っていた。セラフィンはいつもジルヴェスターと言い争いをしている一方で、チェーザレからはジルヴェスターに対して好意を感じるからだ。クラリスは、思わず笑って、手を振り返した。


そして、その隣に——


見慣れた顔があった。


クラリスは、手を振る途中で、止まった。


ユアンだった。

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