船を待つ灯籠
灯籠祭りの当日、澪は港の警備班と合流した。水面へ流す灯籠は数を決めており、漁船の邪魔にならないよう回収船が待機する。鷲尾は回収用の網を借り、失くした時の予備まで確かめた。
夕方、一つだけ灯籠が水面へ出る前に灯った。火はつけていない。持ち主の女性は驚いたが、近くにいた消防団員がすぐ安全な容器へ移した。鷲尾が確かめると、紙の内側は熱くない。灯って見えたものが火であったかさえ分からなかった。
女性は亡くなった夫の名前を書こうとしていたが、火を見たあと手が止まってしまった。澪は祭りを中止する必要はないと告げつつ、参加するかは本人が決めることだと伝えた。女性は別の灯籠へ名前を書き、ゆっくり波へ流した。
回収船の船頭が沖から戻ると、網へ古い布切れが引っ掛かっていた。布は塩に硬くなり、隅に『五』の字が残る。鷲尾は港の倉庫で見つけた木札を思い出したが、祭りの用具に同じ番号がある可能性も考えた。
海面の影は現れなかった。見張り役の一人が灯籠の数を間違えたが、回収後の点検で正しい数量が分かった。間違いを隠すことが事故につながる。澪は数え直した記録をそのまま残した。
回収船には年配の女性が一人乗っていた。灯籠が沈む前に拾い上げるため、網の長さを細かく調整する。鷲尾が古い布を拾ったと話すと、女性は『いつも変なものが掛かるよ』と笑った。釣り糸、浮き、流木。海から来るすべてを妖魔の手掛かりへ変えるわけにはいかない。
女性は灯籠を両手で抱えた。
祭りの終わり、主催者は海岸のごみを集めていた。鷲尾も網を洗い、塩の固まった布を乾燥用の箱に入れた。




