祭りの前夜祭
港町では年に一度の灯籠祭りが近づいていた。東部支所の澪は、昨年の行事で海面に立つ影が見えたという報告を確認した。祭りの主催者は不安を広めたくないと言う。澪も、参加者全員へ怪異の可能性を知らせる理由は今のところないと考えた。
会場には屋台の骨組みが並び、祭り囃子の練習が聞こえる。地元の青年団は灯籠を流す区域と、漁船が通る水路を分けていた。澪は船の誘導係と話し、水辺の見張りを増やすことだけ提案した。
昨年影を見たという女性は、海へ近づくのが怖いわけではなかった。ただ、影が家族の後ろへ付いて歩いたように見えたらしい。澪は女性の家族を呼ばず、見た位置と時刻だけを聞いた。
翌日の準備では、灯籠の一部が予定より重くなった。水を吸った紙が原因で、青年団は作り直しを始めた。鷲尾響が手伝おうとすると、代表は「本職の手を止める方が困る」と笑った。鷲尾は代わりに運搬用の段差を直す作業へ回った。
日暮れ、港の沖に細い光が一本見えた。漁火かもしれないが、風向きとは逆へ流れるように動いた。澪は双眼鏡を使い、近くの船舶情報と照らし合わせた。
主催者は警備当番の弁当を手配しながら、雨天時の中止基準を確認していた。澪は怪異の報告より先に、暴風の予報がないか尋ねた。海上で危険になるのは見えない影だけではない。青年団は作業時間を短くする日を決め、疲れた人が無理をしないよう交代表を作った。
海辺の床板には、去年の修理跡も残っていた。
祭りの開催は変わらなかった。見張りに入る退魔師も、浴衣で歩く住民も、同じ港の夜をそれぞれの方法で迎えようとしていた。




