新しい時刻表
交通会社は終バスの映像を確認した結果、後部座席のカメラを交換することにした。映像の残像が機器の問題かどうかは交換後でなければ分からない。律は作業に立ち会い、整備士が正常動作を確認する様子を見守った。
病院前の停留所では、要望を受けて簡易のベンチが置かれた。市の許可が出るまでの仮設で、通行の妨げにならない幅だった。店主は早速そこへ座った高齢者と天気の話をしていた。
井塚は退職前の最後の夜勤を終え、車庫で制服を畳んだ。律が挨拶すると、彼は「知らない客がいたとしても、無事に降りてくれれば十分」と言った。律は『降りたか確認できない人影』の記録を残すと伝えた。
新しいカメラの試運転では、奇妙な像は現れなかった。しかし一度も現れないことと、原因が分かったことは違う。律は警戒を弱める時期を会社へ任せ、次の定期検査だけ予定に入れた。
夜の停留所に新しい時刻表が貼られ、文字の大きさが以前より見やすくなった。トンネル手前の店主は貼り終えた係員へ礼を言い、閉店の札を下げた。
新しい時刻表は日差しの当たり方まで考えて貼られた。昼に読めても夕方の反射で見えなくなる場所がある。律は実際に夕刻へ戻り、店主と読みやすさを確かめた。文字の大きさだけでなく、待つ人の立つ位置で使い勝手が変わる。終バスの調査で街へ残った確かな変化の一つだった。
店主は新しい時刻表の下へ、小さな傘置き場も設けた。濡れた人が列を塞がずに待てるように。
律は最後のバスへ乗らず、歩道を帰った。向こうの道路から低いエンジン音が聞こえる。バスは今日も誰かを迎え、誰かを降ろしながら街を巡っていた。




