塩蔵の帳面
港の倉庫で塩が減り続ける件について、搬入業者から古い計量器が見つかったと連絡があった。相良と新任の退魔師・鷲尾響は倉庫へ行き、秤の針を確認した。使われていない台秤は錆びていたが、盤面に小さな傷が幾つも残っていた。
倉庫長は、塩の減少分をずっと損耗として処理してきた。誰かを疑って監視カメラを増やす前に、袋の封と搬入時の重量を確認したいと言う。相良は賛成し、術式の調査とは別に物流会社の検量記録を求めた。
鷲尾は倉庫の奥で、塩袋の間に湿った手形を見つけた。人間の手より長い指が五本。だが上方の梁から落ちる水滴が袋へ伝い、似た形を作る可能性もある。鷲尾は濡れた箇所を拭かず、梁の状態を写真へ残した。
帳面には戦前の荷役組合の名前が記されていた。一部の欄へ、数量ではなく『渡した』『受けた』とある。倉庫長は古い商習慣ではないかと考え、港湾資料館に照会することにした。
昼休み、作業員が塩むすびを食べていた。鷲尾は塩という言葉を聞くだけで異変を考え始めている自分に気づき、気まずく笑った。作業員には自分たちの昼食まで怪しまれる理由はない。
検量に立ち会った作業員は、倉庫の記録が紙から端末へ移った時の混乱を話した。塩袋の重さに端数が出ると、以前は経験で丸めていたという。鷲尾はその数字を異常の証拠にしなかった。測り方の変更で生じた差と、今も残る減少分は分けて考える。倉庫長は古い紙の帳面を机へ並べ、担当者を責めずに修正を始めた。
秤は整備工場へ出され、倉庫の奥には仮の検量台が置かれた。相良は封印より先に、毎日の帳尻を正しく合わせるための仕事が始まったのを見ていた。




