退職者の手紙
井波の机へ、退職した退魔師の島岡から厚い封筒が届いた。河川橋の報告書に添えられた照会への返事である。封を切ると、中には短い手紙と古い領収書が三枚入っていた。『木戸へ行く前に、迎えに来た者の記録を見てほしい』とある。
島岡は二十年前、東部支所に勤務していた。今は海沿いの町で小さな文具店を営んでいる。電話では話せないと言ったのに、今回は自分から資料を送ってきた。井波は礼を言うため電話を掛け、手紙を読んだことだけ伝えた。島岡は「店が閉まるまで話せない」と答えた。
領収書は同じ商店で発行されたものだった。紙紐、油紙、安い長靴。どれも術具とは呼べない品ばかりで、日付は木戸の任務の三日前にそろっていた。澪は当時の隊員がどこへ出向いたのか、移動台帳から調べ始める。
台帳には四人分の交通費が書かれている。帰還の報告は三人。ここまでは既知の食い違いと同じだ。しかし領収書の裏側に小さく『一人は迎えではない』と書かれていた。誰がその文字を書いたのかは不明だった。
井波は古い証言を一度に集めるのをやめた。島岡の店は繁忙期だという。差し迫った危険がなければ、人の仕事を中断させてまで過去を掘り返す理由は薄い。
領収書の商店名はすでに地図から消えていた。井波は閉店の理由を調べ、後継者が別の地区で同じ商売を続けていたと知る。問い合わせに応じた店員は古い伝票の型を覚えていなかったが、紙紐の仕入れ先を教えてくれた。手掛かりが見つからない調査でも、尋ねた相手への礼だけは忘れなかった。
昼、澪は書庫の窓を開けて湿気を逃がした。紙紐の切れ端が風で動き、机の端から落ちそうになった。拾い上げた井波は、領収書に付いた土の粉だけはそのまま残しておいた。




