水筒の帰り道
旧井戸を囲う工事は予定より一日早く終わった。教頭は柵の位置を確かめ、休み時間に児童が遊べる場所を広げた。澪は作業の邪魔にならない位置で見守り、泥のついたボタンを学校の展示に戻すか相談した。
洗濯所の屋号が分かったことで、ボタンは身元不明の品ではなくなった。それでも当時の持ち主は分からない。資料室へ寄託する前に、町内会が家族へ連絡できるか調べることになった。澪は保管期限を明記し、学校の判断を急がせなかった。
授業が終わるころ、児童が忘れた水筒を取りに来た。担任は受け取り票へ名前を書き、間違った子に渡さないよう蓋の傷を確かめた。澪はその何気ない仕事を見て、袖を掴んで人数を確かめた昔の洗濯屋の話を思い出した。
旧井戸の底はまだ見えたが、白い石の数は変わらない。佐戸はそれを気にするより、雨の日に水が溢れないか見た方が大事だと言った。澪も同意し、排水口の点検日だけ報告書へ加えた。
門の外では、保護者が子供の名前を呼んでいた。先日袖を引かれたと言った二人も、友達と同じ道を歩いて帰る。異変は再現せず、理由を説明できないまま終わった聞き取りもある。
学校からの帰途、澪は商店街で水筒の替えパッキンを探す母親を見かけた。子供が物を大切に使い続けるには、失くした部品を補う店も必要になる。澪は余計な手出しをせず、店員が在庫を調べる様子を見た。古い洗い場から続く町の仕事は、今も別の姿で残っていた。
澪が校門を出ると、用務員の佐戸が「また何かあれば電話します」と手を振った。現場を離れる退魔師と、そこに残って毎日働く人。どちらの仕事にも、次の朝が待っていた。




