白い石の数
澪が学校へ戻ると、旧井戸の底には白い石が七つ見えた。昨日は六つだったはずだ。用務員の佐戸は笑って「水の具合で隠れたり出たりするんです」と説明した。澪は石を動かさず、水位と光の角度を変えて写真を撮った。
井戸の縁には、昔の洗い場に通じる浅い溝があった。雨が降れば校庭の水が集まる構造だが、補修後は排水先が変えられている。佐戸は新しい排水図を持ってきた。そこには井戸へ向かう線が一本もない。古い溝はそのまま残されたのだ。
「石を拾って数えるなら簡単ですが」と教頭が言う。澪は断った。石を動かしてしまえば、どの位置から何個に見えたか確かめられなくなる。子供の安全に関わらない場所なら、無理に答えを急ぐ必要はなかった。
午後、六年生の理科の先生が、井戸の古い構造を授業で扱いたいと申し出た。澪は立ち入り区画に入らない範囲なら協力できると伝えた。ただし不確かな怪談を事実として語らないことが条件だ。
児童が描いた校庭の地図には、井戸のそばへ小さな鳥が一羽描かれていた。先生に理由を聞くと、窓辺でよく見かける雀だという。澪は先に見つかった鳥のボタンと結びつけず、絵を返した。
理科の先生は児童へ『見える数が違う時は、何を変えたか書こう』と伝えた。観察ノートには天候と水位、見た場所が並ぶ。澪は授業の成果を退魔師の報告書に使うつもりはなかったが、子供たちが事実と推測を分けていることを頼もしく思った。校庭の一角に、使い慣れた白いチョークの箱が置かれていた。
夕方、日陰になった井戸を再び写すと白い石は六つに見えた。どちらが本来の数なのか分からない。佐戸は覆いの鍵を掛け、明日の清掃予定を黒板に書いた。




