洗い場のボタン
学校の校庭を整備していた業者から、古い洗い場の跡で小さな金属ボタンが見つかったと連絡があった。篠原澪は午後の授業が終わってから現場へ入り、教頭と位置を確認した。工事区画には柵があり、子供は近づけない。
ボタンには鳥の形の刻印があった。表面を洗うと図柄が失われそうで、澪は土のついたまま写真を撮った。教頭は学校の制服ではないと話したが、過去の児童服をすべて知っているわけではない。資料室の卒業写真を当たることになった。
校庭脇の旧井戸は、前回の補修後も水位を記録していた。今日は水が低く、底に白い石が見える。澪が覗くと、石の数が昨日の記録より一つ多かった。水面の反射かもしれず、すぐに異常と断定はできない。
放課後、児童二人が職員室へ来た。古い水飲み場の近くで、誰かが袖を引いたと話す。担任はふざけていたかと問い詰めず、転倒しなかったか先に確かめた。澪も二人の言葉を別々に聞き、互いの話を合わせさせないよう配慮した。
鳥のボタンは校内では見覚えがないという回答だった。かわりに用務員が、かつて井戸端で働いた洗濯屋が同じ印を使っていたと教えてくれた。店はずっと前になくなったが、町内会の古写真に看板が写っているらしい。
教頭は発見したボタンをすぐ展示できない理由を、好奇心の強い児童たちへ説明した。拾った場所や持ち主を調べてからでなければ、知らない人のものを勝手に飾ることになる。子供たちは少し残念がったが、代わりに学校の昔の写真を見て質問を書き始めた。澪はその質問を読む許可を得た。
工事担当者が穴へ覆いを置く間、運動場では部活動が始まった。声を上げて走る子供たちの横で、澪は地面の小さな一品を記録箱に収めた。




