水辺の代案
河川橋の下部通路を使っていた配達員たちが、遠回りを減らす方法を求めてきた。相良は集会所に呼ばれ、危険な場所を開ける約束はできないと説明した。声の主を伏せたままでも、足場の不安定さと調査の必要性は伝えられる。
配達員の一人は、橋を渡らない道なら荷物を台車から積み替えなければならないと言った。市の職員は仮設階段を提案したが、車椅子の利用者には使えない。森崎が図面の片隅にあった古い坂道を指すと、そこは民有地だった。
所有者へ連絡を取ると、休日に限り通行を認めてもよいという返事があった。毎日の代替路にはならないが、すべてが行き止まりではない。奈央は橋の警備時間を見直し、配送が集中する朝だけ人を増やすことにした。
会合を終えた相良は、住民に怪異の話をしたくなる自分を抑えた。相手が納得しないからと恐怖を持ち出せば、判断を奪うことになる。現場で確かめた危険だけを根拠に話す方が難しい。
戻った詰所には、森崎が描いた道案内の試作が貼られていた。文字が小さすぎたため、配達員の意見を聞いて作り直した。地図には『急坂あり』『段差なし』が別々に記載された。
会合の帰り、森崎は自分で新しい道を歩いてみた。地図では緩い坂に見えるが、荷物を押すと途中で車輪が側溝へ引っ掛かった。翌日、職員と再訪して鉄板の補修を頼んだ。会議室の上では気づけない不便がある。森崎は靴底の泥を落としてから、案内図の矢印を一つ描き直した。
夕方、川の向こうへ荷車を押す女性がいた。仮の道は少し長くても、彼女は道に迷わず進めた。相良はその姿を見届けてから、橋脚下の監視表を次の班へ渡した。




