閉店後の一杯
茶舗の調査が三日目を迎えた夕方、宮野は澪たちに番茶を淹れた。古川律は店で売っている最も安い茶葉を買い、領収書を求めた。宮野は笑って「仕事だからって遠慮しなくていいのに」と言ったが、調査先との金銭の境目は曖昧にしたくなかった。
木戸の隙間は朝より狭くなっていた。三崎は衝立を外さず、記録した時刻を更新した。奥から音はしない。誰かが現れるのを待つより、店の商売を妨げないことが優先だった。澪は入口までの安全な足場を石工に確認し、立ち入り範囲を小さくした。
帰る前、宮野は祖父の帳面を紙袋に入れて差し出した。預かり期限は一週間。井波は受領票に頁数を書き、帳面の綴じ紐が切れかけていることも記載した。壊して戻した時に、何が前から壊れていたか分からなくならないように。
片付ける澪へ、宮野が尋ねた。「あの道は、いつか通れるようになるのかしら」。答えられる材料はなかった。澪は「今のところ、通していいとは言えません」とだけ言った。宮野は落胆したが、曖昧な慰めを求めなかった。
奥の棚には、貸しになっている茶葉を入れる空の缶があった。宮野は缶を振ってみせた。音はしなかった。それでも捨てずに置いているのは、祖父を信じているからではなく、店を継いだ自分の気持ちがまだ決まっていないからだという。
宮野の店では、古い客が新茶の予約票を取りに来ていた。澪が扉の隙間を見ている間も、宮野は茶葉の量を間違えずに包んでいく。調査が始まってから客足が減ったかと尋ねると、少しだけ減ったと答えた。澪は札が目立つと知り、三崎と相談して通路案内の色を落ち着いたものへ替えた。
店のシャッターが降りると、木戸は通りから見えなくなった。三崎は最後に衝立の脚を確かめ、支所へ戻った。茶舗の明かりは消え、商店街の惣菜店だけが夕食を買う人で賑わっていた。




