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怪異のご相談は、夜間受付まで――退魔師協会・東部支所の日常  作者: 竜太郎


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濡れない踏石

三崎は木戸の右に並ぶ踏石を測り直した。以前は片足分の石が一つ危険だったが、今回はその手前の石にだけ苔が生えていない。周囲は朝露で湿っているのに、表面へ落とした水は端へ滑り、石の真ん中を濡らさなかった。

「結界が水を弾くのなら、札にも反応するはずです」。古川律が低い位置から符を近づけると、紙は動かず、代わりに彼の靴紐だけがほどけた。結び直した直後も同じことが起きた。三崎は実験を止め、律に靴を替えさせた。術の反応なのか偶然なのか、履物一つでは決められない。

澪は石を裏返す案に反対した。地面の下に何があるか分からない。地元の石工を呼んで話を聞くと、踏石は戦後に敷き直されたもので、もとは門の内側にあったという。現在の配置を決めた工事図面には、石の数が一つ少なかった。

『増えたのではなく、数え方が違うのかもしれない』。澪は石工とともに幅を測り、石と石の隙間まで図へ書き込んだ。すると、道幅は図面と一致した。数の食い違いは、一本の長い石を二枚と見るかどうかにあった。

見ていた宮野が笑った。「祖父は何でも一人多く数える人でした」。その言葉に三崎の表情が変わった。人を多く数える癖と、木戸の帰還記録。似た事実だからと直ちに結びつけるべきではないが、聞き流すこともできなかった。

石工は作業靴の底を見せ、雨に強い靴ほど苔のない石でも滑る場合があると教えた。律は靴紐に夢中で、自分の立ち位置が危険な縁へ近づいていたことに気づく。三崎に肩を引かれ、面目なさそうに一歩下がった。術を使うより先に足場を確かめる。その当たり前の手順を、翌日の若手向け講習へ入れることにした。

石工は危険な一枚へ小さな木枠を置き、客が踏まないよう通路を整えた。帰り際、律は靴紐を強く結んだ。今度はほどけなかったが、理由を説明できる者はいなかった。

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