乾かない道
相良と越智奈央は、河川橋の下へ降りる新しい手順を作った。人員を四人に増やし、橋の上と下に必ず見張りを置く。声の聞こえる場所で名を呼び合わず、帰還は手首の印と無線の時刻で確認する。
篠原澪は支所から同行し、橋脚の影がどこまで伸びるか記録した。東雲が指摘した場所は水面から離れていた。そこに札を置くと、川砂が細い輪を描き、直後に人の声が止まった。
奈央は膝をつき、前回引き込まれた手の痕を見た。まだ薄く残っているが、痛みはない。相良が後退を指示し、誰も無理に奥へ踏み込まなかった。橋の下で壊れたものがあるなら、時間をかけて確かめるしかない。
帰り道、澪の無線へ地下書庫の井波から連絡が入った。保管していた三本の鍵のうち、木製の楔が温かくなっているという。鍵箱は施錠されたままで、誰も触れていない。
「今日は持ち出さないでください」
澪はそう頼んだ。橋と路地がつながっているのか、今は分からない。別々の現場を一度に動かせば、何が原因だったか追えなくなる。
橋の見張り役に回った森崎は、まだ耳の奥の水音が完全に消えていなかった。無線の音量を少し下げ、地上から人員の出入りを数えた。相良は無理をさせず、異常を感じたらすぐ交代するよう伝えた。現場の人数を増やすとは、ただ人を並べることではなかった。
支所へ戻ると、三崎は翌週の休みを確認していた。相良は現場資料を机に置き、深く息をついた。橋の封鎖は続く。診療所も学校も倉庫も、それぞれの明日へ動いている。
夕刻、茶舗の老女から電話が来た。裏路地の木戸が、今日だけ少し開いていたという。澪は現場の保全を頼み、訪問の時刻を決めた。窓の外では街灯が点き、雨上がりの道を人々が家へ帰っていった。




