封じる手、残す手
河川橋の調査班から、夜間に再び声がしたとの連絡が届いた。相良は現場を閉じたまま、川の上流で水位を測る班を増やした。声が大きくなったわけではない。しかし橋脚の下に集まる砂が、工事の振動に合わせて動いていた。
三崎は東部支所の資料室で報告を読み、封印の補強案を二つ作った。一つは橋の下を強く閉じる方法。もう一つは、声の届く範囲だけを狭め、人間の通路を確保する方法だった。
「どちらを選んでも、分からないことは残ります」
篠原澪の言葉に、三崎は「そうだ」と答えた。誰かが何かを待っている場所を、力で静かにすることはできる。だがそれが正しいとは限らない。
夕暮れ、協会の古い連絡先から来訪者があった。茶舗の木戸で会った東雲だった。受付の職員は名前を聞き、普通の来客用の札を渡した。本人はそれを胸につけて待合室に座った。
井波が用件を聞くと、東雲は河川橋の地図へ目を落とした。「橋の下へ、一人で入らない方がいいです」。それ以上、理由は言わなかった。
受付職員は東雲の来客札を渡す時、ごく普通に勤務先と用件を尋ねた。東雲はその手順を面倒がらず、必要な範囲で答えた。後で澪は受付の職員を褒めた。名の知られた相手だからと手続きを省けば、別の誰かが危険な目に遭うかもしれないからだ。
三崎は具体的な危険を問い、東雲は水面ではなく橋脚の影へ注意するよう伝えた。命令ではなく、現場で確かめるべき情報として受け取った。
東雲が去ったあと、澪は来客札を回収した。札の紙は乾いていた。井波は彼の名前を書き留め、受付帳の最後の欄へ『相談一件』と記した。




