橋を渡る朝
封鎖された橋の通行は、朝の通勤時間だけ許可された。河川管理者と協議し、危険な下部通路を閉じたまま、橋上の歩道を開けることにした。相良は警備員と立ち、行き交う人を見守った。
河川敷の向こうでは、散歩をする人が立ち止まっていた。昨日まで通れた場所が工事中になっている。相良は詳しい理由を話せず、代わりの道を丁寧に案内した。
支所からの連絡では、森崎の耳の水音が弱まったという。奈央は手の痕が消えず、検査を受けていた。二人が無事でも、何が橋の下にいるか分からない以上、現場は閉じたままだ。
深見岳から届いた助言には、古い橋の基礎工事を調べるようあった。川を跨ぐ場所には、水の流れを変えた時に置かれた石が残ることがある。相良は資料を取り寄せ、昔の船頭の名簿と照合を始めた。
昼、上流で小さな工事が行われた。濁った水が流れ、橋脚の足元へ薄い砂が積もる。相良が覗き込むと、砂の下に人の手形のような跡が幾つも浮かんだ。
巡回用の水筒を受け取った相良は、休憩の時間を警備員と交代した。朝から同じ場所に立ち続けるわけにはいかない。
相良は橋の上に立ちながら、通勤客の歩幅を見ていた。急ぎ足の人も、杖をつく人もいる。下部通路が閉じたことで遠回りする人には、案内板が十分な高さにあるか確かめた。橋を守るとは橋脚の下だけを見ることではないと、森崎へ送る報告に書いた。
「まだ呼んでいますか」と支所から無線が入る。相良は「聞こえない」と答えた。声はなくても、目に見えるものだけでは済まない。
日没前、歩道を渡っていた小学生が手を振った。相良は小さく振り返した。橋の上にいる人間を守る。それだけは、今ここでできる仕事だった。




