夜明けの積み荷
倉庫の夜勤は三日ぶりに通常の人数へ戻った。吉岡玲奈は作業員たちの手首を確認し、赤い線が再発していないことを確かめた。塩袋も前夜から一粒も減っていない。
主任の矢野は、行方不明の古い船荷について荷主へ問い合わせていた。損失の補償と、古い記録の整理は別の仕事だ。会社の担当者は怪異の話を知らないまま、倉庫の管理方法を見直している。
学芸員から、戦時中の荷札を資料館で保存したいと申し出があった。玲奈は協会の封じ札を外す前に、現物が安全かどうか一週間観察する条件を付けた。
夕暮れ、矢野が作業員を集めて休憩を取った。短い休憩だったが、いつもより長く笑い声が続いた。働く人々の名前を誰かが忘れないよう、玲奈は勤務表の写しを保管した。
移送の日、荷札は薄い箱へ収められた。運搬車が港を離れても、床に白い筋は現れなかった。倉庫は普通の塩の匂いに戻った。
矢野は荷台の戸が閉まるまでその場に立っていた。
荷札の移送には梱包担当の作業員も付き添った。普段は食品の箱を扱う人だが、湿気を避けるための手順に慣れている。玲奈が礼を言うと、彼は「物を壊さず運ぶのが仕事です」と返した。昔の船荷と今の倉庫をつないだのは、不思議な術ではなく、その手だった。
玲奈は帰りに岸壁の近くへ寄った。海は穏やかで、航行灯が幾つも動いている。誰が塩を運ぼうとしていたか、最後まで見えなかった。それでも今いる作業員が怪我をせず働けるなら、守るべきものは守れた。
翌週、資料館から礼状が届いた。荷札の裏にあった船員の走り書きは、これから調べられるという。玲奈は礼状を読み、封筒を資料棚へ納めた。




