戻らない船荷
港湾資料館で、吉岡玲奈は古い輸送船の航海日誌を見つけた。出航予定にあった塩袋がひとつだけ未積載となり、別の小船へ積み替えられた記録がある。だが小船も行方が分からない。
資料館の学芸員は、船の遭難と積荷の行方を混同しないよう教えた。港には記録の残らない荷が多い。亡くなった人がすべて船に乗っていたとは限らない。
玲奈は倉庫へ戻り、荷札に刻まれた番号と現在の出荷台帳を照合した。毎晩減っている塩は、合計すると古い一袋とほぼ同じ重さになっていた。
「これで終わるんでしょうか」
矢野は淡い期待を口にした。玲奈は首を振った。重さが一致しても、何が欲しかったのかは分からない。
その夜、倉庫を閉めて見張ると、床に白い筋が出た。筋は海の方ではなく、古い荷札の前で止まった。結晶が小さな山になり、風のない場所で崩れていった。
玲奈は倉庫の入口へ警戒札を増やさなかった。数を増やせば塩の移動経路まで見失うおそれがあった。測るための場を残した。
古い荷札は海水で傷んでおり、紙の縁が指先で崩れそうだった。玲奈は無理に広げず、写真を撮るための台を借りた。学芸員は船名の旧字体を教え、記録にある別名も書き添えた。同じ船が違う名で呼ばれた時代のことを、今の地図だけで調べるのは難しかった。
玲奈が見ていると、作業台の上に船の形をした濡れ跡が残った。塩の山はどこにもなくなっている。荷札の紙だけが、昨日よりわずかに明るくなった。
翌朝、減量は確認されなかった。矢野は損失を埋めるため保険会社との交渉を始めた。玲奈は原因未確定のまま報告を閉じず、次の出荷日にも立ち会う予定を入れた。




