水筒の持ち主
翌日、学校の落とし物箱から、古い水筒が見つかった。金属製で、表面には三つの花が彫ってある。篠原澪は校長立ち会いで水筒を開け、内側が乾いていることを確かめた。
児童への聞き取りは担任に任せた。怖がらせるために調べているわけではない。子供たちからは「校庭で水を飲むと、誰かが冷たいと言う」という話が出たが、実際に聞いた児童は二人しかいなかった。
澪はその二人に、声の方向を尋ねた。どちらも水飲み場の方だと答えた。井戸の染みとは離れている。少なくとも同じ現象とは決められない。
矢嶋が旧校舎の卒業写真を見つけた。昭和二十年代の児童が、水筒を手に校庭へ並んでいる。写真の端には、今と同じ三つの花を持つ水筒が写っていた。
「持ち主を探すなら、同窓会の連絡先がありますよ」と校長が言った。澪は礼を言い、学校から問い合わせる形にしてもらった。退魔師の都合で個人情報を持ち出すわけにはいかない。
教員の一人は、児童の噂話が大きくならないよう、教室では普段どおり水筒の忘れ物を注意していた。
落とし物箱にはほかにも名札のない帽子や上履きが入っていた。澪は水筒だけを特別に扱わず、管理規則に沿って借用した。校長が書類に押印し、棚の開閉時間を記録する。古い学校の記憶に触れるためにも、今の学校の約束を守らなければならない。
夕方、染みは広がらなかったが、井戸の縁で小さな泡が一つ弾けた。澪が近寄ると、水のない土から石鹸の匂いがした。旧洗い場に残ったものなのか、別の何かが近づいているのか。
矢嶋はロープを張り直し、翌朝の登校前に地面を確認すると約束した。澪はその仕事を任せ、夜の巡回へ向かった。




