門前の足音
三崎、篠原澪、古川律の三人は、茶舗の裏路地へ再び入った。前回の四つの結び目を避けるため、数を確かめる方法を変えた。入口で互いの名を呼び、帰る時に同じ順番で答える。簡単だが、古い現場で使われた方法だった。
木戸の手前で、澪は真鍮の鍵を差し込んだ。鍵穴は錆びているのに、抵抗なく回る。扉の向こうには石畳の細い道が続き、遠くに寺の屋根が見えた。音のしていた湯釜は、道端の小屋で火もなく沸いている。
律が計測器を出すと、針は最初から振り切れた。三崎が止めるより早く、木戸の奥から足音が近づいた。履物は分からない。石畳を踏むたびに、空気の重さだけが変わった。
現れたのは昨日、茶舗で茶を飲んでいた若い男性だった。黒い上着を着て、何も持っていないように見える。澪は挨拶をしようとして、喉が動かないことに気づいた。
男性は律の計測器を一瞥し、「それは仕舞ってください。奥まで届きます」と言った。律は反論せず、針を戻した。三崎が名を問うと、男性は静かに「東雲です」と答えた。
律は右の石に近づいた時、靴底が床へ吸いつく感覚を覚えた。澪が声をかけても、返事をするまで数秒かかった。三崎は互いの様子を見ながら進路を決め、目的の寺が見えていても踏み込まない。道が続いていることと、通れることは同じではなかった。
その名字は三崎も聞いたことがあるらしい。だが彼は態度を変えず、現場の立ち入り許可を説明した。東雲は最後まで聞き、「寺へ行くなら、右の石を踏まないで」とだけ告げた。
澪は示された石を見た。苔に覆われた小さな石だった。石の奥から、誰かがこちらの人数を数える声がした。




