捨てられた紙
工事会社の担当者は、現場から離れた倉庫で黒い紙を見たと認めた。紙は壁の下地と配管の間に挟まっていたという。「焦げた紙だと思ったので、廃棄物の袋へ」。若い現場監督は、何かを責められると思っているのか声を硬くしていた。
三崎は見つけた位置だけ尋ね、責任の話をしなかった。工事は市の基準通りで、壁の中の札など図面にはなかったからだ。
袋はすでに処分場へ運ばれていた。澪が回収を提案すると、三崎は一度だけ考え、断った。「同じものを戻しても、何を封じていたか分からない」。代わりに協会の保管庫から七年前の記録を取り寄せた。
古い担当者の報告書には、妖怪の種類も討伐数もない。そこに書かれていたのは、下宿屋を改築した時に廊下を一本塞いだこと、そして雨の日だけ音がすることだった。
『通路の使用を禁ずる。ただし住人への敵意なし』
澪には矛盾して見えた。危険がないのなら、なぜ閉じたのか。三崎は回答欄を指で叩いた。「危険かどうかと、そこに居ていいかどうかは違う」。
支所の資料係は夜勤を延長してくれた。七年前の担当者に照会することも考えたが、まずは残る記録を読み切る方がよい。澪は小さな文字に目を凝らし、線が引かれた箇所と消された箇所を区別して写した。古い報告書には、当時の担当者が迷った時間まで残っていた。
建物に戻ると、管理人が昭和のアルバムを抱えて待っていた。古い廊下の端には、木の小さな棚が映っている。黄色い長靴が片方だけ載っていた。
三崎が棚の位置を測る間、澪は写真を明かりに透かした。窓の外には川が写っていた。いまその方向にあるのは、四車線の道路だった。




