↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異のご相談は、夜間受付まで――退魔師協会・東部支所の日常  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/192

持ち主のない一本

区の遺失物倉庫から、保管期間を過ぎた傘の処分日が通知された。越智奈央は業務として立ち会うことになり、番号札を読み上げた。ほとんどはビニール傘で、持ち手に名前のあるものは返却が済んでいた。

最後に一本、骨の曲がった黒い傘が残った。傘の裏側には船の絵が薄く描かれている。倉庫の係員は、この傘だけ引取人の欄が毎月書き変わると話した。字形はいつも同じで、『渡しの番』と書かれている。

「誰かの悪戯ですかね」

奈央は答えず、控え用の紙を一枚借りた。傘を処分せず資料として保管する許可を取り、旧船着き場の記録とともに協会へ持ち帰った。

夕方、渡し場で祖父を偲んでいた女性が訪ねてきた。祖父の遺品の写真に、同じ傘が写っていたという。傘の柄には、濡れた手が滑らないよう布が巻かれていたはずだった。

現物を見ると、柄には布が残っていない。女性は受け取ることをためらった。「祖父が置いてきたなら、持ち帰らない方がいい気がして」。奈央は返すかどうかを急がせなかった。

展示箱の設置場所は、住民との話し合いで決めた。河川敷の通行を妨げず、洪水時には撤去できる高さにする。奈央は傘の来歴を断定する説明文を避け、旧渡し場の道具としての歴史だけを記した。怪異を知らない人も見に来られるようにするためだった。

その後、傘は橋脚の脇の小さな展示箱へ移された。箱は河川管理者が設置し、保守員が毎週点検する。雨の日には曇るが、内部へ水は入らない。

奈央が最後に見た時、黒い傘の先は川とは反対の、いまの歩道へ向いていた。彼女は箱の扉に鍵をかけ、鍵番号を台帳へ記した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。