紙の向こうの人数
年一度の棚卸しは、大雨で電車が遅れた朝に始まった。三崎と井波は資料庫の机を寄せ、戻った人間の記録を一冊ずつ照合した。篠原澪は後から到着し、鉛筆で訂正箇所を控える役を任された。
何度数えても、一つの小隊だけ人数が合わない。登録は五人。人事記録は四人。出動後の怪我の報告では六人に応急処置が施されている。
「同じ怪異の巻き添えになった住民かもしれん」
三崎はそう言ったが、澪は住所欄が空白なのを見つけた。資料を横断して探すと、当時の病院の夜勤日誌に、名乗らない若い男の処置記録が残っていた。運ばれてきた者は血を流していたのに、負傷箇所が分からなかったという。
井波はその日誌を見て、ふいに手を止めた。二十年前に会った人の顔を思い出したらしい。「私はこの人に一度、鍵を預けた」。資料庫の旧式の鍵束が机に置かれた。
鍵の札には東部支所の名前がなく、地名だけが刻まれていた。商店街の裏手にある、いまは使われていない路地の名だった。
当時の小隊には、同じ名字を持つ二人の退魔師がいた。澪はその点を最初に確認し、記録の混同がないか探した。生年月日も配属先も違う。単純な入力ミスでは説明できないと分かるまで、手間がかかった。数字を不思議だと言うのは簡単だが、その前に終えるべき確認は多かった。
「そこへ行くべきでしょうか」と澪が聞く。井波は首を横に振った。「まず、今の管理者を探すの。昔ここにいたからって、今も私たちのものだとは限らない」。
棚卸しの終了時刻が近づく頃、人数の合わない記録は一冊にまとめられた。持ち主の分からない鍵は、紐を結び直され、鍵箱の中央へ収められた。




