代替の担当者
東部支所の当直表に赤い印が増えた。深見が山へ出張し、相良は橋の補修、三崎は町内会との会議で不在になる。井波は机に人員表を広げ、残る職員で夜間受付を維持する方法を考えていた。
新人の鷲尾は連続勤務を申し出たが、井波は断った。「疲れている人を二人分として数えるわけにはいかない」。代わりに別支所へ応援を頼み、未緊急案件の訪問日を調整した。
応援に来たのはベテランの橘だった。支所のやり方が違い、受付用紙の項目も少し異なる。橘は初日に台帳を見直し、危険箇所の地図が大きく印刷されていることを褒めた。井波は使いづらい欄があれば遠慮なく言ってほしいと頼んだ。
橘は応援先で使う鍵の本数を確かめ、紛失時の連絡方法をメモした。慣れた支所なら目を閉じても歩けるが、知らない廊下では非常口の位置から覚え直さなければならない。鷲尾は案内を申し出て、夜間に閉まる扉の場所を一緒に回った。
その夜、相談電話が三本重なった。一件は病院の換気音、一件は自宅に入れない高齢者、一件は井戸から聞こえる笑い声だ。橘は高齢者の連絡先を先に確かめ、民生委員へつないだ。怪異の疑いだけで緊急度は決められない。
夜勤の椅子は高さを変えられず、橘は背中へ小さなクッションを当てた。職員も身体の具合に合わせて働く必要がある。
鷲尾は電話の途中で、相手が声を震わせていることに気づいた。井戸の相談者は子供の頃の怖い記憶を話し始めた。橘が隣からメモ用紙を差し出し、聞き取れた言葉だけ書くよう示した。
夜明け、当直室の冷蔵庫には誰かが置いたおにぎりが二個残っていた。鷲尾は名札を確かめ、一個を温めた。井波は机に顔を伏せず、次の勤務表を静かに組み直していた。




