迎え番の休み
茶舗の宮野は、昔の迎え番が毎日木戸の前に立っていたわけではないと話した。雨が強い日と、近所に葬儀があった日だけ呼ばれたという。本人の名を知る祖父はすでに亡くなり、帳面には休んだ日もほとんど残っていない。
澪は椅子の脚に付いた新しい木を調べ、修理を頼んだ職人の名簿を探した。町の木工所で古い注文控えが見つかり、代金が『四人目へ渡す』と書かれていた。店主は意味を知らず、祖父の筆跡だと認めた。
宮野は迎え番の椅子に座っていた祖父の姿を覚えていた。客のいない夕方になると外を見つめ、遠くで自転車のベルが鳴れば顔を上げたという。澪はその話を聞き、待つ人にも家の仕事や身体の疲れがあったはずだと思った。帳面の文字が少なくても、夕食の支度は毎日続いていた。
宮野の茶舗には客が次々に来た。茶の量り売りを待つ人を通しながら、澪たちは木戸を塞ぐ荷物だけ動かした。観測のために営業を止めない約束をしていたからだ。
午後、東雲が路地の向こうを通った。澪は声を掛けず、宮野も茶を淹れ続けた。彼は木戸を一度見たが、踏石へ近づかない。三崎の立っている位置を確かめ、静かに角を曲がった。
「あの人は入らないんですね」と宮野が言った。三崎は「入れないのか、入る必要がないのかは分かりません」と答えた。知っていることを越えて語るべきではない。
夕方、椅子の座面に薄い湯気が立った。誰も湯呑みを置いていない。宮野は湯気が消えるのを待ってから、翌日の配達用の札を椅子に重ねた。
店の外で、商店街の時計が五時を告げた。迎え番の休みを決めた人が誰なのか、まだ誰も知らない。




