閉じた改札
廃駅の写真を見た島岡は、井波の前でしばらく黙った。島岡の手には文具店で使う鉛筆の粉が付いている。「この改札には覚えがある」と言ったものの、制服の四人が誰かまでは分からないという。
澪は菓子屋へ戻り、駅員の名前を教えてもらえる人がいないか尋ねた。店主は昔の町内会の会長を紹介した。会長は資料の取り扱いに慎重で、家族へ問い合わせる前に写しの目的を説明するよう求めた。
自転車道の工事記録には、旧改札口の床石が一部保管されているとあった。澪と三崎が公園の倉庫を訪ねると、石は棚の下に置かれ、番号札が外れていた。誰も触れていないのに一枚だけ冷たい。澪は温度計を当てたが、他の石との差はわずかだった。
倉庫の管理人は、旧駅の床石を公園の舗装へ使う案が以前あったと教えた。歴史を感じられる道になるはずだったが、表面が滑りやすく見送られたという。澪は歩く人の安全と石の保存が両立する場所を探す必要があると考え、提案した人の意図まで否定しなかった。
三崎は石を持ち出さなかった。市の備品として管理されているものだ。町内会との協議が終わるまで、現物を動かす理由はない。
公園では週末に小さな市場が開かれるという。重い荷物を運ぶ人の導線も、保管石の扱いに関係していた。
夕刻、倉庫の管理人が鍵を掛けた時、誰もいない通路から改札鋏の音がした。澪が振り返るより先に、管理人は足元の段差を示した。「ここ、転びやすいんです」。彼は物音を気にせず、保管棚の角へ保護材を付けた。
井波へ送った報告には、音の発生時刻と石の保管番号だけを書いた。駅のない街に、改札を通る人がまだいるのかは分からなかった。




