岸へ戻る足
橋脚の鉄片を調べた資料係から、古い渡し舟の札に似ていると報告が来た。穴の位置が合い、塗料の年代も近い。ただし橋脚の工事材へ再利用された可能性もある。相良は断定せず、舟の登録記録を調べるよう井波へ頼んだ。
森崎は声を聞いた翌日の診察で、睡眠に支障がないと話した。医師は症状がないことを喜び、次の検査日を決めた。退魔師だからといって、身体の負担を放置してよいわけではない。
渡し舟の名簿には、一日に渡った人数と荷物の重量が残っていた。船頭の名前は毎日同じとは限らず、雨の日には代役が立ったらしい。井波は記録を読み、昔の舟も人員配置を調整しながら動いていたと知った。橋が架かる以前から、この川を越えるには仕事が要った。
川沿いの古い道には、荷車が通った幅の轍が今も残る場所があった。奈央はその地形を地図へ写した。
奈央が川原で測量をしていると、水面へ一人分の足跡が続いて見えた。泥の浅瀬までなら説明できるが、そこから先は水が深い。彼女が足を止めると、足跡も止まった。相良は近づこうとする奈央を呼び戻した。
川辺の漁具店では、主人が貸した長靴を乾かしていた。測量に協力した職員が水に入る際使ったものだ。相良は足跡の時刻と長靴の返却時刻を照らし合わせた。合わなかったが、だからといって足跡が怪異だと確定するわけではない。
夜、鉄片の保管箱の内側に泥が付いていた。鍵は掛かったまま。奈央が撮影すると、泥の中に細い藁が一本混じっている。橋脚の中で見た記憶はないものだった。
その日、橋上の歩道は予定どおり一部開放された。通行する人々は水面の足跡を知らず、修理された柵を握って家へ帰っていった。




