橋の裏の鉄片
河川橋の補修班から、橋脚の内側に古い鉄片が見つかったと連絡が来た。相良は森崎、越智奈央と現場へ入り、作業責任者の説明を聞いた。鉄片は人の手のひらほどの大きさで、端に穴が二つある。橋の建設時に使った部材ではないという。
橋脚の声が聞こえた場所に近いため、森崎は緊張していた。しかし今日は水音を聞いていない。相良は医師の診察を受けて現場へ復帰した森崎に、無理な聴音をさせないと決めていた。
補修班の主任は鉄片を取り外す際の手順を示した。橋脚の部材を勝手に抜けば強度へ影響する可能性がある。奈央は術具を入れる穴を探すより、施工図面へ番号を記すことを優先した。工事が終われば同じ場所は簡単に見られなくなるため、見たままを残す必要があった。
作業主任のヘルメットには、擦れた番号札が付いていた。
鉄片の裏側には古い塗料が残る。奈央は削り取らず、携帯式の計測器で成分を確かめた。ところが一度目と二度目で測定値が変わり、機器が故障した可能性が出た。相良は採取を延期し、計測器を点検へ回した。
作業班は橋脚の空洞を塞ぎたいと申し出た。老朽化の補修は急ぐ必要がある。相良は声の原因が未解明でも工事を止めない代わりに、工事中の監視体制を二人以上にするよう頼んだ。
昼、橋の上から小学生たちが川を眺めていた。教師は柵から離れるよう声を掛け、相良の班に気づくと会釈した。何かを知らない子供が安全に通れるようにすることも、現場の仕事だ。
夕刻、鉄片を包む布に水が染みた。橋脚の中は乾燥している。奈央は濡れた位置を写真に収め、布を交換した。布の向こうから、爪で金属を叩くような音が二度した。




