二人目の休憩
手すりの取付工事に立ち会った澪は、設置位置をめぐる小さな争いを見た。管理会社は直線の手すりを予定していたが、住民の女性たちは中間で握り直せるよう曲げてほしいと言う。工事担当者は費用が上がると説明し、自治会長は予算表を持ってきた。
律は誰の意見にも術の話を持ち出さなかった。階段を日々使う人の身体に合った形を選ぶのが先だ。自治会は共用部の修繕費を組み替え、曲がった手すりを採用することにした。
自治会長は新しい手すりの維持費を心配した。金具が緩めば直す必要があり、毎月の点検を誰が引き受けるか決めなければならない。管理人は年に一度の業者点検と普段の見回りを分け、住民が重い工具を扱わなくて済む方法を提案した。
見回りの記録は掲示板ではなく管理室へ置かれることになった。住人の部屋番号や健康状態を誰もが読める形で残さないためだ。
昼休み、澪が踊り場を見張っていると、一階の住人が二階から降りる女性を支えた。二人はそこにあるはずのない小さな段差を跨ぐように足を運び、何事もなく別れた。観測札には反応がない。妖力が働かなかったのか、札の方式が合わなかったのか判断できない。
管理人が古い住人台帳を持って来た。小窓のそばに座っていたという女性は三十年以上前に亡くなっているが、当時は一人暮らしの老人たちへ買い物袋を運んでいたという。記録に残るのは住居の移動だけで、親切まで証明する資料はない。
工事が再開されると、職人は曲げた手すりを壁へ固定した。年配の女性が試しに握り、「これなら上がれる」と笑った。
澪はその言葉を確認書へ書き、古い小窓の話は別紙に残した。見えない踊り場に何があるとしても、今の手すりは人の手を支えていた。




