五番の手袋
古綱の調査は中断になった。収蔵庫の空調が故障し、資料館は保管品の移動を優先することになったからだ。鷲尾は持ち出しの人手を申し出たが、学芸員は資格を持つ職員に任せると答えた。触ってよい物といけない物があることを、鷲尾もようやく理解した。
相良はその間に、現役の作業員から聞き取りを進めた。見えない綱を見たという運転手は休暇を取り、復帰する日は自分で決めたいと言っていた。職場は代わりの運転手を手配し、出勤を急がせなかった。
収蔵庫の備品を運ぶ車には温度と湿度の記録計が積まれていた。鷲尾は箱を抱えれば済むと思っていたが、急な温度差で布や紙が傷むと教わった。学芸員は移動先の棚が整うまで搬出を止め、職員が交代で状態を見守った。保存という仕事にも当直があるのだった。
五番の古綱の箱を移す際、綿の手袋が一組余計に見つかった。片方には塩が付着し、片方は乾いている。収蔵庫の備品ではなかったが、古い箱の内側に入り込んでいたらしい。
「捨てますか」と鷲尾が聞くと、学芸員は首を横に振った。「まず、ここにある理由を調べます」。手袋は別の袋に収め、発見者の名前と時刻を添えた。
夕方、倉庫の係船柱の交換が始まる。相良は港の管理者から報告を受け、工事区域を迂回する案内が正しく出ているか確かめた。荷物を急いで運ぶ運転手たちは文句を言いながらも、指示に従っていた。
鷲尾は帰路、岸壁で結び方を練習する新人船員を見かけた。何度もほどいては結び直し、先輩に手首の向きを直されている。五番の綱は資料館にある。こちらの綱は、明日誰かを帰すために使われる。




