船を降りる順番
相良が港の年配船員を訪ねると、彼は小さな食堂で昼食を取っていた。名前は湊川。子供の頃から船に乗り、五番荷役の最後の親方を知っているという。話を聞く代わりに、相良は食堂の混雑が引くまで待った。
湊川が語ったのは、嵐の夜に船を下りる順番の話だった。荷役の若い男が、足を怪我した仲間を岸壁へ先に運んだ。自分は最後に残り、綱を結んで船を離れた。その後の記録は別々で、男が戻ったという帳簿と、行方不明者名簿の両方に名が残る。
「どっちが本当ですか」
鷲尾の問いに湊川は箸を置いた。「俺は、その夜にはまだ生まれてない」。自分が直接見ていないことを、懐かしい話だからと事実にはしない老人だった。
湊川の話に出た怪我人の治療記録は、当時の病院では確認できなかった。戦災で失われた台帳が多いと病院史の担当者は説明した。鷲尾は行方不明者の名前を追う作業を続けるか相良へ尋ねたが、相良はまず資料の残る場所を調べ、遺族へ突然訪問しない方針を示した。
古い地図には船が着いた岸壁の位置が記されていた。しかし埋め立てで形は変わり、当時の海面は倉庫の下にある。相良は探査の計画を急がず、工事図面に残る地層の情報を取り寄せた。
食堂の主人が湊川へ熱い茶を出した。湊川は毎週ここで、亡くなった妻が好きだった魚料理を食べるのだという。鷲尾は質問を終えた。
港へ戻ると、新しい係船柱が一列に置かれていた。そこへ船を安全に結べるのは、今夜の仕事に出る人たちの方だった。
鷲尾は湊川が椅子から立つ時、膝へ手を添えるのを見た。長く船にいた身体には古傷も残る。食堂の主人は頼まれなくても低い椅子を引き、入口の戸を押さえていた。




