短い連絡網
町の停電が続き、避難所へ充電用の発電機が届けられた。深見は支所との連絡をまとめ、鷲尾には無線中継局の久保へ問い合わせるよう指示した。機械が正常でも、山には反射する声の通り道がある。以前の異常と今回の避難者の数を、まだ同じ原因とは扱えない。
久保は回線の混雑を避けるため、必要な連絡だけ短く送ってきた。山の旧道に設置した赤布は一部流されている。救助隊が迷わないよう、撤去した位置を記した地図も届いた。
町役場では、住民への一斉連絡が難航していた。避難していない家の固定電話が停電で使えず、携帯電話を持たない老人もいる。深見は妖魔対策の専門家としてではなく、人員が足りない部署を手伝う一人として、連絡先の照合作業を始めた。
夕方、確認の取れなかった農家へ鷲尾と消防団員が行くと、家主は牛の餌を運んでいた。「放送は聞こえた。だけど牛を置いては行けなかった」。責められる言葉を予期した顔だった。鷲尾は危険区域と逃げ道を伝え、家畜の移送先を役場へ相談した。
家畜の移送先を決めるには、牛の健康証明と運搬車が要った。役場の担当者は畜産組合へ電話し、空いている牛舎を探した。鷲尾は自分がロープを扱えるかを正直に話し、経験のある消防団員に任せた。知らない技術を知ったふりで使うのは、人間にも動物にも危険だった。
帰りの車内で無線が一度鳴り、古い声が「連れたか」と尋ねた。消防団員は聞かなかったという。鷲尾は返事をしなかった。
車は避難所へ戻り、移送用の柵を運ぶ準備が始まった。深見は鷲尾の報告に時刻を付け足し、牛の頭数も別の欄へ記した。




