避難所の白い毛布
山間の町で早朝に土砂崩れが起きた。人家への被害は少なかったが、道を失った集落の住民が体育館へ避難した。深見岳は防災無線に知らない声が混じるという以前の相談を受け、自治体から連絡を受けて町へ向かった。
体育館で毛布を配っていたのは、ボランティアではなく給食センターの職員だった。厨房が停電しても鍋を運べるよう、隣町との連絡をつないでいた。深見は無線の話をする前に、避難者の人数を確かめた。
鷲尾は体育館の入口で靴底の泥を落とすよう案内された。避難者の中には杖をつく人もいる。泥水が床に広がれば転倒につながる。消防団員が敷いた古いタオルを見て、鷲尾は車に積んでいた吸水布を数枚取り出した。術の道具より、今はそれが役立った。
名簿には三十七名。毛布は三十八枚配られていた。職員は「一枚余分に渡したかもしれません」と気にしたが、深見は残数の検査を先に頼んだ。毛布は湿った床へ敷いたものもあり、枚数だけで人の数は分からない。
真夜中、入口の簡易ベッドが一つきしんだ。誰も寝ていないはずの場所から、靴を脱ぐような音がした。鷲尾響は結界札を手にしかけたが、近くで眠る子供を起こさないよう深見が制した。
朝には道路の片側が通れるようになり、家へ帰る人が出た。避難所に残る高齢者のため、職員は薬の受け取りを手配していた。深見が聞いたという足音に、不安げな人はいない。
白い毛布の一枚に、泥の付いた小さな手形があった。深見は捨てずに袋へ入れ、避難所の責任者へ事実を伝えた。手形が誰のものかを探す前に、毛布を一枚必要とする人がいないか、もう一度確かめた。




