持ち主のいない鍵
駅前の古い写真を探した澪は、地元の写真店に頼み込み、改札の位置が変わる前のアルバムを見せてもらった。店主の長谷川は写真に写る番小屋を指した。「ここには昔、夜警さんがいたんですよ」。雨の日、仕事帰りの人へ傘を貸していたと聞く。
番小屋は駅の拡張工事で取り壊されていた。しかし備品台帳には錠前が一つ残り、鍵の返却欄は空白のままだった。写真には番小屋の戸に、傘を並べるための木の棒が掛かっている。澪は印刷を依頼し、原板を写真店に返した。
写真店では現像機を使う機会が減り、長谷川の息子はスマートフォンの画像を紙に焼く仕事を増やしていた。古い駅の写真も、客が日付を調べたいと持ち込んだものだ。長谷川は「持っているだけでは分からんものですよ」と言い、裏面に鉛筆で書かれた撮影月を示した。
同じころ、駅員の若槻が金属製の小さな鍵を持参した。改札機の下から拾ったという。先端は摩耗し、現在の駅設備には合わない。若槻は「ずっとここにあったようにも見えます」と言ったが、澪は発見日時だけ先に確かめた。
井波が台帳を照合すると、昔の番小屋の鍵番号と一致した。なのに開錠記録の日付が二つある。一方は撤去前、もう一方は撤去から七年後だった。後者の押印をした職員はすでに亡くなっている。
三崎は鍵を取り上げず、駅の保管手続きに従うことにした。遺失物なら、所有者の確認や引き渡し期限がある。協会の保管庫へ移した瞬間に、誰のものだったか追えなくなることもある。
店主は帰り際に、古い傘立てを一つ見せてくれた。底には濃い錆があり、店の雨漏りを受けた跡だという。澪は鍵より先にその錆の匂いを覚えた。いつか誰かが傘を返しに来たら、番小屋はなくても受け取る手は要るのだろうか。




