雨の日の配達帳
雨が降る朝、茶舗の配達員が木戸の手前で足を滑らせた。幸い怪我はなかったが、石畳には濡れると滑りやすい場所がある。宮野は澪へ連絡し、調査区域を広げるべきか相談した。澪は怪異とは別に、石の表面の安全を確かめるよう提案した。
石工は現場を見て、踏石の磨耗を指摘した。危険な一枚を避けて歩くうち、隣の石へ負担が集中していたらしい。宮野は店の裏道を使う頻度を減らし、配達員には別の入口を案内した。
配達帳には、雨の日だけ注文が増える家がある。宮野は店を閉められない理由を笑って話した。外へ出るのが難しい客にとって、温かい茶葉が届くことは日々の楽しみだった。
澪は旧河道の地図を持参していたが、今日は広げなかった。石工の修理が優先され、通路が安全になるまでは調査もできない。宮野はその順序を理解し、工事日の都合を付けた。
夕方、配達員が新しい滑り止めの試作品を踏んでみた。靴がしっかり止まり、本人は親指を立てた。怪異に触れたかもしれない道でも、人間の工夫で直せる部分がある。
配達員は工事に入る石工へ、荷車の幅を直接見せた。歩く人には十分な通路でも、台車の車輪が引っ掛かれば使えない。澪はその実演を見て、図面の寸法だけで判断しかけていたことを反省した。石工は素直に施工案を直し、荷車が安全に抜けられる幅を確保した。
石工は工事の前に、店の裏口を使う人へ一軒ずつ知らせた。注文の配達にも響くからだ。
澪は報告書に転倒事故の危険と対策を書き、木戸の未解明事項はそのまま残した。二つの仕事を一緒にしない方が、次の人へ正確に引き継げる。




