木製の楔の温度
支所の地下書庫で保管されていた木製の楔が、再び手のひらほどの温かさになった。井波は温度計を当て、室温よりわずかに高いことを確かめた。澪が触れようとすると、井波は先に手袋を渡した。
楔は真鍮の鍵と鉄の鍵とは別の箱に収められている。今日、ほかの二本には変化がなかった。三崎は茶舗の木戸が閉まっていると知り、持ち出しを見送った。温かいから役に立つとは限らない。
長い間調べてきた井波は、楔の表面に新しい傷を見つけた。細い線が一本増え、木目に沿って黒くなっている。澪は昨日の写真を重ねて比較した。光の向きでは説明しにくい差だが、いつ生じたかまでは分からなかった。
書庫の換気設備は正常だった。紙を傷めないよう室温を調整し、楔の箱を乾燥した棚へ移した。井波はその手順を細かく書き、特別扱いしすぎないよう注意した。
昼、伊佐から電話があり、古い隊員名簿の一部が別の支所に保管されていると知らされた。楔とは直接関係ない資料だが、人数の不一致を調べる助けになるかもしれない。
楔の収納箱には初めから小さな布が敷かれていた。井波が交代した新人へ理由を尋ねると、布の交換日を先輩から教わったと答えた。昔の方法をただ真似ているだけかもしれないが、知らないことを聞ける相手がいるのは大事だった。井波はなぜ布を使うのか調べ、手順書へ説明を加えると約束した。
温度計は二台使われ、両方の数字を残した。片方の故障も考えたからだ。確認は二人で行った。
夕方には楔の温度が下がった。井波は箱を開けず、そのまま施錠した。暖かさが消えても、木の傷は残っていた。




