迎え番の名字
宮野の茶舗から、帳面に残る貸しの名前が少し読めるようになったと連絡が来た。井波と澪が訪れると、専門家が照明を工夫して撮った写真が用意されていた。擦り切れた紙の奥に、名字らしい二文字が浮かぶ。宮野は祖父の知人に同じ名字がいたと話した。
ただし読めた文字は一字だけで、もう一つは判然としない。澪は住民票の記録を探すことを急がず、宮野の叔母に昔の呼び名を尋ねた。叔母は『迎え番』は人の役目で、特定の家の名字ではなかったかもしれないと言った。
帳面には返済の印がなく、代わりに小さな丸が描かれている。古い買掛帳の記載に似ているが、宮野の祖父は別の記号を使っていた。井波は店の帳面を比べ、丸が茶の貸しだけに現れることを確認した。
裏の木戸はその日、きちんと閉まっていた。踏石の木枠も動いていない。宮野は朝の配達を終え、店先に新茶の札を出していた。怪異が静かな日でも、調べられることはある。
澪が帰ろうとすると、宮野が『迎え番』の意味を一つ思い出した。祖父は相手を迎えに行く人だけでなく、帰った人に茶を淹れる者もそう呼んでいたという。
宮野は祖父の帳面を開く時、畳んだ布を下へ敷いていた。以前は乱暴にめくって綴じ糸を切りかけたことがあるらしい。井波は専門家の勧めた保護紙を一枚渡した。怪異を解こうとするより先に、この店に残る家族の品を守りたい。その気持ちは宮野にも伝わった。
帳面からは乾いた茶の香りがした。宮野はそっと頁を閉じた。
井波はその言葉を聞き、役目が一人だけのものではなかった可能性を書き添えた。帳面の丸は、もう少し長く調べることになった。




